弁理士の日々

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非常用復水器の動作メカニズム

2011-06-11 18:06:49 | サイエンス・パソコン
原子炉は、燃料棒の間に制御棒を挿入して核分裂を停止した後も、崩壊熱が発生し続けるので、水冷却を継続する必要があります。そして、全電源喪失時であっても冷却を継続できるようにする設備を備えています。
福島第一原発の場合、1号機は「非常用復水器(Isolation Condenser)」を用いています(こちらの図面)。圧力容器内の蒸気が非常用復水器に配管で導かれ、非常用復水器に溜まった水で冷やされて液化し、その水が圧力容器に戻る、という仕組みです。
福島第一原発2~6号機から撤去されたという「蒸気凝縮系」も、同じ原理であるようです。

最初に抱いた疑問は、「圧力容器内の蒸気を非常用復水器に導き、復水した水を圧力容器に戻すためには、循環ポンプが必要なのではないか」という点です。電源喪失時に作動するのですから当然電動の循環ポンプをおけないことはわかります。それではどのような駆動力で水が強制循環されるのか。

しばらくして気づきました。「非常用復水器の高さを圧力容器の水位よりも高い位置とすれば、自然と循環が始まる。」

① 圧力容器と非常用復水器とを遮断するバルブが開かれると、高圧の蒸気が非常用復水器に導かれる。
② 非常用復水器の配管内で高温の蒸気は周囲の水で冷やされ、凝縮して水になる。
③ 水が非常用復水器の配管内に溜まると、この配管内の水位は圧力容器内の水位よりも高い位置となるので、圧力のバランスが崩れ、非常用復水器の配管内の水が圧力容器に導かれる。
④ 非常用復水器の配管内の水が流下するので、また高温の蒸気が非常用復水器の配管内に導かれる。

多分、このような考え方でいいのでしょう。循環ポンプは不要で、ポンプ作動のための電源も不要です。

ただし、非常用復水器に溜まっている蒸気冷却用の水はどんどん加熱され、蒸発して失われます。この水がすべて蒸発した時点で、非常用復水器は機能を喪失します。福島第1の1号機で、燃料棒挿入直後からの崩壊熱を冷却し続けた場合、はたして何時間で非常用復水器の水が消滅するのか。

ところで、非常用復水器の図面によると、非常用復水器には「消火系より」という配管が用意されています。この配管が、「消防ポンプと接続することが可能であり、消防ポンプによって水を供給すれば常に非常用復水器内の水を補給することができる」という機能を持っているのであれば、何時間であっても圧力容器で発生する崩壊熱を冷却し続けられることとなります。
格納容器のベント弁や圧力容器に消防ポンプで注水する設備などは、過酷事故に備える「アクシデントマネジメント」の一環として、1990年代後半に追加した設備だそうです。この設備のおかげで、今回はどんなに助かったことか。
非常用復水器の図面に描かれている「消火系より」という配管も、ひょっとすると1990年代に追加された配管系かもしれません。
今回は、この配管系が活躍するチャンスはありませんでした。1号機の非常用復水器は、「溜まった水がすべて蒸発する」というタイミングの以前に、津波来襲直後に「弁が開かない」というアクシデントによって機能を停止していたらしいからです。

2、3号機の非常用冷却設備である隔離時冷却系は、津波後も3月14、13日まで機能を維持していました。バルブ操作電源が確保されていたものと推測されます。
それに比較して、1号機の非常用復水器のみが、なぜバルブ操作用電源を津波来襲時に喪失してしまったのでしょうか。バルブ操作用非常電源はバッテリーだと思われますが、1号機は建屋の地下にでも配置されていたのでしょうか。津波で水没してしまったのでしょう。そのため、バルブさえ操作可能であれば消防ポンプで海水を供給して永続冷却が可能である能力を有していながら、津波直後から冷却不能に陥ってしまったのでしょう。

1号機が消防ポンプによって圧力容器への淡水注入を開始したのは、12日朝の5時46分でした。しかしこのときすでに、炉心溶融を起こしていたのみならず、圧力容器の破損も起きていたというのです。海水注入の時期が遅かったのみではなく、淡水注入の時期も遅かったことになります。
誰も、津波襲来と同時に非常用復水器が機能を停止していたと気づけた人がいなかったのでしょう。
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2 コメント

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始めまして^^ (アナバコリア)
2011-06-13 16:43:41
情報たくさんですね^^また遊びにきます^^
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緊急高圧注水装置 (岡田元浩)
2011-12-02 17:27:48
スプリンクラーのタンクを補強して、ロケットエンジンで加圧すれば、可動部が無いので天文学的な格納時信頼性がある。自動車用エアーバッグや旅客機、戦闘機にも使われ、工業常識です。コストも安いので、残る原発に早急につけるべきです。詳細は小生の氏名でヒットするHP参照
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