<2202> 大和の花 (414) ムラサキシキブ (紫式部) クマツヅラ科 ムラサキシキブ属
クマツヅラ科ムラサキシキブ属の仲間はムラサキシキブ(紫式部)をはじめ日本に10種と3変種が確認されている。ここでは大和(奈良県)で出会った仲間の中で、主に野生するムラサキシキブ、コムラサキ(小紫)、ヤブムラサキ(薮紫)を見てみたいと思う。次いでクマツヅラ科のクサギ(臭木)とハマゴウ(浜香)に触れる。ではまず、ムラサキシキブから。
ムラサキシキブは山野の林内や林縁に生える落葉低木で、大きいものでは高さが3メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、細い枝が乱雑に伸びて見える。葉は長さが10センチ前後の長楕円形で、先が尾状に尖り、基部はくさび形になる。縁にはほぼ全体的に細かい鋸歯が見られ、両面とも無毛。極めて短い柄を有し、対生する。
花期は6月から8月ごろで、葉腋から集散花序を出し、淡紅色の花を多数つける。花冠は長さ数ミリで、先は4裂し、裂片は平開する。雄しべは4個、雌しべは1個で、両方とも花冠の外に伸び出す。核果の実は直径3ミリほどの球形で、秋になると紫色に熟す。この実の美しさから『源氏物語』の作者で知られる平安時代の才媛紫式部にあやかってこの名がつけられたという。ほかにも、ミムラサキ、タマムラサキ、ヤマムラサキ、トリムラサキなど多くの別名をもつが、このように紫色の美しい実に由来する名が目につく。
北海道から本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島、中国、台湾にも見られるという。大和(奈良県)では全域的に見られ、山歩きをするとよく出会う。黄葉も美しく、秋にはその彩を見せるが、葉が散り尽くした後も紫色の実は残り、枯枝に見られるのもこの木の風情である。この美しい実により庭や公園に植えられる。 材は白く、木理が緻密で粘りがあり、道具の柄や箸にされる。 写真はムラサキシキブ。左から枝ごとに花をつける林縁の個体。花をつけた花序。紫色が映える実。すっかり葉を落とした冬枯れの枝に残る実。 冬枯れて残るも紫式部の実
<2203> 大和の花 (415) コムラサキ (小紫) クマツヅラ科 ムラサキシキブ属
山野の湿った林縁などに生える落葉低木で、ムラサキシキブよりも高さが低く、2メートルほど。樹皮は黄褐色で、枝は紫色を帯び、枝先は垂れる。葉は長楕円形で、先は尾状に尖り、ムラサキシキブに似るが、縁の鋸歯が本種では上半部に現われる違いがある。
花期は7月から8月ごろで、葉腋よりやや上に離れたところより集散花序を出し、淡紅紫色の花を多数つける。花はムラサキシキブとほぼ同じで、合弁花の花冠は先が4裂し、裂片は平開し、雄しべ4個も雌しべ1個も全て花冠外に伸び出す。球形の核果は紫色に熟し、この実もムラサキシキブに似るので判別の難しさがある。
本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。大和(奈良県)には非常に少ないと見られ、自生がはっきりと確認された例はないようである。庭木として植えられているものはコムラサキの方が多いように思われる。ムラサキシキブよりも全体に小さいのでコシキブ(小式部)とも呼ばれる。
写真はコムラサキ。左は花(奈良市郊外の正暦寺付近。植栽)。中は実を連ねた枝(矢田丘陵の山足の湿田放棄地。雑木、雑草の中に見られた。植栽起源か、逸出か)。右は下北山村の前鬼川の縁で見かけたもの。果序の柄が葉腋より離れていることによりコムラサキと見たが、ムラサキシキブの変形かも知れない。判別に自信はないが、あえて載せた。 寒中や一歩一歩の日脚かな
<2204> 大和の花 (416) ヤブムラサキ (薮紫) クマツヅラ科 ムラサキシキブ属
雑木林の林内や山地の林縁などに生える落葉低木で、高さは大きいもので3メートルほどになる。仲間のムラサキシキブは標高の高い山でも見かけるが、本種は標高1000メートル以上の深山では見かけない低山帯に多い樹種である。樹皮は灰褐色でなめらか。葉は長さ5センチから10センチの広卵形または楕円形で、先は尾状に尖り、基部は円形。縁に細かな鋸歯が見られる。
花期は6月から7月ごろで、葉腋から集散花序を出し、紅紫色の花を2個から10個つける。合弁の花冠は長さ数ミリほどで、先が4裂し、裂片は平開する。雄しべ4個と雌しべ1個は他種と同じく、花冠より外に伸び出す。核果の実は直径数ミリの球形で、熟すと紫色になる。他種に比べて枝、葉、花序、萼などに毛が多いので、判別点になる。実に萼片が残存するのも本種の特徴で、果期にはこれによって見分けることが出来る。
本州の宮城県以南、四国、九州と朝鮮半島に分布し、大和(奈良県)では全域的に見られ、奈良盆地周辺の青垣の山々、即ち、低山帯に多いところがうかがえる。 写真はヤブムラサキ。左は花。他種よりも花冠の色が濃く、毛が目につく。右は実で、萼が実に残存しているので、同属他種とのはっきりとした判別点になる。 かんかーんとかんかーんと晴れ冬の奈良
<2205> 大和の花 (417) クサギ (臭木) クマツヅラ科 クサギ属
明るい二次林やその林縁などに生える落葉小高木で、大きいものは高さが8メートルほどになる。樹皮は灰色から暗灰色で、皮目が目につく。枝は灰褐色から淡紫褐色。葉は長さが8センチから15センチの広卵形で、先は尖り、基部はやや切形。縁に鋸歯はなく、両面とも有毛で、葉身と長さを競うほど長い葉柄を有し、対生する。
花期は7月から9月ごろで、枝先や枝の上部葉腋に集散花序を出し、芳香のある白い花を多数つける。合弁花の花冠は普通5裂し、4裂するものも見られる。紅紫色の萼片はほぼ同色の花の筒部に合着する。雄しべ4個と雌しべ1個は花冠より外に伸び出す。果期は10月から11月ごろで、直径7ミリ前後の球形の核果は光沢のある濃い藍色に熟し、5裂して深紅に変化した萼片の真ん中につくので、その色合いが美しい。
北海道、本州、四国、九州、沖縄とほぼ全土に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。大和(奈良県)での分布は全域的で、よく出会う樹種である。クサギ(臭木)の名は、花の香気からは思いもつかない枝葉に独特の強い臭気があることによる。
この臭気にも関わらず、用途は広く、庭木にされるほか、若葉は山菜として食用に、果実は常山(じょうざん)の実と呼ばれ、草木染めに、枝葉や根皮は煎じて薬用にされ、リュウマチ、高血圧症、利尿等に効能があるとされている。観賞用の園芸品には同属のヒギリ(緋桐)やボタンクサギ(牡丹臭木)などがある。 写真はクサギ。左から花盛りの樹冠、花のアップ、深紅の萼片をともなった藍色の実。 水仙の花の記憶に灘の朝
<2206> 大和の花 (418) ハマゴウ (浜香) クマツヅラ科 ハマゴウ属
海岸の砂地に生える匍匐性の落葉小低木で、砂の上を這って茎を伸ばし、枝を立ち上げて、高さ30センチから70センチほどになる。樹皮は灰褐色で、枝には4稜がある。葉は長さが3センチから6センチほどの広卵形または楕円形で、先は尖らず、縁に鋸歯はない。質は洋紙質で、裏面には細毛が密生し白緑色を帯びる。極めて短い柄を有し、対生する。
花期は7月から9月ごろで、枝先に数センチの円錐花序を立て、淡青紫色の花を多数つける。花冠は長さが1.5センチほどの漏斗状花で、先は5裂し、裂片の下側1個が大きく、シソ科の花に似る。雄しべは4個、雌しべは1個。核果の実は直径6ミリから7ミリの球形で、萼に包まれる。
ハマゴウの名は小野蘭山の『本草綱目啓蒙』(1803年)に佐渡の方言として紹介され、これが和名になった。ハマゴウは浜香(はまこう)の転訛であろう。茎葉に特有の臭気があり、線香にも利用された。茎が這うのでハマカズラ(浜葛)、ハマハイ(浜這)などとも呼ばれ、漢名は蔓荊。なお、ハマゴウは薬用植物で、乾燥した実は蔓荊子(まんけいし)と呼ばれ、強壮、沈痛、風邪などに、枝葉は浴湯料に用いられて来た。
本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島、中国、東南アジア、オーストラリアに広く見られるという。海に面しない大和(奈良県)でも熊野川の支流に当たる十津川村の北山川の河原に自生している。長い海岸線を有する隣接の和歌山県や三重県では珍しくないが、大和での産地はこの最南端の一箇所のみで、極めて珍しい。細々たる群落で、奈良県のレッドリストには絶滅寸前種として見える。 写真はハマゴウ。左から砂地を被うように広がる枝葉、枝先に咲く花、鈴のようについた実。(いずれも十津川村)。
大いなる冬生きいきとある大和