<1993> 大和の花 (244) ツクバネウツギ (衝羽根空木) スイカズラ科 ツクバネウツギ属
名にウツギ(空木)とあるが、ユキノシタ科のウツギ(空木)と異なり、本種はスイカズラ科ツクバネウツギ属の落葉低木である。ツクバネウツギ属は日本に4種が見られ、これに変異しているものが加わるという。ここでは4種の中の3種と変異のものを見てみたいと思う。
まずはツクバネウツギから。ツクバネウツギ(衝羽根空木)は明るい山地の疎林内や林縁に生える落葉低木で、高さは2メートルほどになる。葉は卵形から卵状楕円形で、長さが大きいもので6センチほど。縁には不揃いの鋸歯が見られ、先端は細くなって尖り、対生する。
花期は5月から6月ごろで、新しい枝に普通2個ずつつく。花は長さ2センチから3センチほどの漏斗状で、白色の花冠は花筒からやや急に広がって5裂し、下3裂片の内側に黄橙色の網目状の斑紋が入る。花の基部は花柄と間違われやすい1センチほどの子房で、子房と花冠の間に萼片5個が放射状についているのが特徴として見える。
本種では萼片が5個全部ほぼ同長で、果期にも残り、その形が羽根つきの羽根に似ることと全体がウツギ(空木)に似るところからこの名が生まれたという。東北地方の太平洋側から関東地方以西、四国、九州北西部に分布する日本の固有種として知られ、大和(奈良県)ではほぼ全域に自生し、普通に見られる。 写真はツクバネウツギ。左は大和高原の林縁、右はケツクバネウツギ(毛衝羽根空木)の花で、二上山での撮影。花冠の側裂片の内側などに白い長毛が見えるツクバネウツギの変異したものと考えられている。
植物は所を得て生え
植物の花は時を得て開く
開く花は果実を生み
果実は植物の成果
この成果は時と所の
縁における充実
どんなに小さな植物も
どんなところに咲く花も
時と所の縁の現れ
いわゆる花の存在は
言わば果実の存在は
時と所の縁の産物
天の時と地の利の賜物
これはまさしく恵みの証
天地のまことに花は開き
天地のまことに果実は生る
<1994> 大和の花 (245) オオツクバネウツギ (大衝羽根空木) スイカズラ科 ツクバネウツギ属
丘陵地や低山帯でよく見られるツクバネウツギに比べ、どちらかと言えば、タイプの落葉低木で、ツクバネウツギに似るが、ツクバネウツギより一回り大きく、よく分枝して高さが3メートルほどになる。葉も花もツクバネウツギより大きいのでこの名がある。葉は広卵形から卵状楕円形で、対生する。花期は4月から5月ごろで、新しい枝の葉腋に白色または黄白色の先端が5裂する漏斗状の花を2個ずつつけ、花冠の5裂片の下3裂片の内側には黄橙色の網目状の斑紋がある。
葉も花もツクバネウツギより大きいが、一見しただけではわかり難い。判別するには花の基部の萼片の違いによるのがよい。ツクバネウツギでは5個の萼片がほぼ同長であるのに対し、オオツクバネウツギでは5個の中のⅠ個が極端に小さいか、4個しかない違いがある。また、オオツクバネウツギでは花の咲く時期が少し早い傾向にある。
本州の福島県(太平洋側)以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では北部と南端部では見られないようである。 写真はオオツクバネウツギ。左は西大台、右は金剛山で撮影したもの。
山野の花に会いに行く
言葉を求めて会いに行く
言葉は心のよりどころ
出会う花から
意義ある言葉が得られれば
花との出会いは上々
花は言葉を発しないが
言葉を紡いで
向き合ってくれる
その姿はうるわしく
辺りの風景に融合し
支えられながら
私の感性に語りかけてくる
私が山野に足を運ぶのは
小さい花でもその花の
強くもやさしい真摯な
言葉に惹かれるから
<1995> 大和の花 (246) コツクバネウツギ (小衝羽根空木) スイカズラ科 ツクバネウツギ属
日当たりのよい山地の林内や林縁などに生える落葉低木で、他種と同様よく枝を分け、高さが2メートルほどになる。葉も花もツクバネウツギより小さいことによりこの名がある。葉は大きいもので5センチほどの卵形から狭楕円形で縁に鋸歯のないものが多い。
花期は5月から6月ごろで、新しい枝の先に1個から7個の花を咲かせる。花冠は小振りな漏斗状花で、黄白色、黄色、ときに淡紅色を帯びる花も見られる。花が黄色のものはキバナツクバネウツギ(黄花衝羽根空木)と呼ばれ、コツクバネウツギの変異したものとされ、コツクバネウツギより葉が大きいのも特徴として見られる。ツクバネウツギでは萼片が5個であるのに対し、コツクバネウツギでは2、3個と少ない違いがある。
コツクバネウツギは本州の中部地方以西、四国、九州に分布、キバナツクバネウツギも同様の分布域を有する日本の固有種と見られている。大和(奈良県)ではほぼ全域で見られ、キバナツクバネウツギにもときに出会う。 写真は左2枚がコツクバネウツギ、右の2枚がキバナツクバネウツギ。コツクバネウツギは天川村とニ上山、キバナツクバネウツギは川上村での撮影。
日差しを受けて
若葉が瑞々しい
初夏の山
大も小も
草木はみな
居場所を得て
それぞれに
命を育くみ
一山の美しさに
加わっている
それはまさに
四季を有する
自然の趣
自然の姿
求めてやまない
私の心の
置きどころ
<1996> 大和の花 (247) ヤブウツギ (薮空木) スイカズラ科 タニウツギ属
山地の林縁や山間地の川岸、または疎林内や岩場などの日当たりのよいところに生える落葉低木で、山間の低地から山岳高所まで垂直分布では幅広く見られる。高さは大きいもので4メートルほどになり、枝が密生して薮のようになることによりこの名がある。葉は楕円形から広楕円形で、縁には細かい鋸歯があり、先は細くなって尖り、基部はくさび形になる。全体に開出毛が多いのでケウツギ(毛空木)の別名でも呼ばれる。
花期は5月から6月ごろで、枝先や対生する葉の腋に濃紅色から暗紅色の漏斗状花を2個から数個ずつつけ、花どきにはよく目につく。花冠の先は5裂し、白い花柱が花筒から少し突き出て見える。花柄に見えるのは円筒状の子房で、その先に萼片と花冠が構成されている。萼片は細長く、短毛の密生が目立つ。私はまだお目にかかっていないが、白い花を咲かせるものをシロバナヤブウツギ(白花薮空木)という。
本州の茨城県以西の太平洋側、瀬戸内側、四国に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)ではほぼ全域に見られ、山間地から標高1600メートルの高所の岩場までその姿が見られる。 写真はヤブウツギ。左は大台ヶ原ドライブウエイの標高1400メートル付近。大峰山脈を背景に初夏の彩りを見せる。右は天川村北角での撮影による。
大地に根を下ろした植物
その植物の花を見たいならば
その植物が生えている場所に
赴かなくてはならない
花は時のものであるから
その時に赴かなくてはならない
花はつまり時と所の存在で
時と所の恵みにほかならない
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