大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年10月09日 | 植物

<1745> 大和の花 (57) キツネアザミ (狐薊)                                  キク科 キツネアザミ属

                     

  この項ではアザミによく似た牡丹刷毛のような形の花を咲かせるキク科の草花を見てゆくことにしたい。まずは、アザミによく似ているが、アザミではなく、騙されたということで、騙しのテクニシャンとしてその名を負うキツネをもって名づけられた2年草のキツネアザミを見てみたいと思う。

  茎は高さが90センチほどに直立し、上部で枝を分ける。葉は羽状に深裂するが、アザミのような棘はなく、軟らかいので触れても痛くない。花期は5、6月ごろで、茎頂や枝先にアザミに似た紅紫色の頭花をつける。本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島、中国、インド、オーストラリアなどに見られるという。川岸や道端、休耕田などに生え出し、低い草々の中にあってはよく目につく。だが、取り柄のない雑草としてあり、大和地方でも雑草の扱いで見られる。 写真はキツネアザミ(左は田原本町の休耕田。右は大和川の河川敷)。  あざみにはあらずあざみににるあざみきつねあざみはあざみにあらず

<1746> 大和の花 (58) タムラソウ (田村草)                            キク科 タムラソウ属

                 

  本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島に見られる山地の草原などに生える多年草で、大阪奈良府県境の葛城山(959メートル)の草地に自生している。茎は大きいもので1.5メートルほどになり、上部で枝を分ける。葉は卵状長楕円形で羽状に全裂し、8月から10月ごろ、枝先に紅紫色の頭花を咲かせる。花の基部の総苞は広卵形に近く、これらを総合してみるとアザミ属のアザミに酷似するが、棘のない点がアザミでないところである。

  不思議なもので、同じような山地の草原に生えて、同じような花を咲かせても、アザミには棘があり、タムラソウには棘がない。ずっと昔の生い立ちが出現したときの環境に違いがあったのかも知れない。とにかく、タムラソウには棘がない。花は管になった筒状花ばかりで、これもアザミに似るところであり、自前のストローでこの筒状花の奥より蜜を吸う蝶をお得意さんにしている花である。タムラソウが咲き始めると草原は秋の気配を呈して来る。なお、タムラソウ(田村草)の名は人名から来ているものか、語源は定かでない。 

 写真はアゲハチョウの来訪を受けるタムラソウの花(左)とタムラソウの冠毛(右)。 なお、タムラソウの生える一帯を厳密に言えば、大阪奈良府県境の境界より大阪側に当たるが、植生上一体であると見て、タムラソウを大和の花に加えた。金剛山などを含め、この種の花が何点か見られるが、その都度説明を加えていきたいと思う。  蝶は蝶の命を生きる原野かな

<1747> 大和の花 (59) ハバヤマボクチ (葉場山火口)                                   キク科 ヤマボクチ属

                                                    

  ハバヤマボクチ(葉場山火口)とは奇妙な名であるが、葉場山は草刈り場のある山のことであり、火口は火打ち石で起こした火種を移し取る材のことで、キク科ヤマボクチ属の仲間の葉に出来る綿毛を集めて火口に用いたことによりこの名がある多年草である。

  ハバヤマは日当たりのよい茅の草地が広がり、ハバヤマボクチはそのようなところに生える。紫褐色を帯びた太くて硬い茎が高さ1、2メートルほどに伸び、茎の下部に大きな三角状の葉がつく。葉の裏面には白い綿毛が密生し、この綿毛を火口に用いたわけである。上部の葉は小さく、秋が深まる10月ごろ、葉のほとんど見られない枝先に直径数センチの頭花を点頭する。花は黒紫色の筒状花が多数集まり、花の基部の総苞には先の尖った花と同色の総苞片が多数開出し、花を形成している。その花は下向き加減に茎の首を曲げて咲く特徴がある。

  本州の福島県以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)ではススキの名所で知られる曽爾高原で見受けられる。調査によれば、草刈り場の少なくなった今ではここ一箇所のようで、奈良県のレッドデータブックは絶滅危惧種にあげている。ハバヤマボクチが花をつける時期はススキが銀白色の穂を靡かせるころで、ススキの群落を背景にこの花を見ていると、ススキの穂群の合唱陣をリードする指揮者が幻想される。 写真は日に輝くススキの群落の中にあって異彩の存在であるハバヤマボクチの花と花のアップ。

  さやさやと聞こえるススキの合唱歌

       ハバヤマボクチはさながら指揮者

       テーマの曲は 「 たけなわの秋 」

<1748> 大和の花 (60) ミヤコアザミ (都薊)                                        キク科  トウヒレン属

                                                     

  山地の草原に生えるトウヒレン属の多年草で、花がアザミに似るのでこの名がある。茎は高さが大きいもので1.5メートルほどになり、上部で枝を分ける。根生葉は柄があり、花時にも残る。茎葉は長楕円形で、羽状に深く裂けるが、棘はなく、アザミではないとわかる。花期は9、10月ごろで、枝先に直径1センチほどの紅紫色の頭花が数個集まってつく。

  福島県以西、四国、九州に分布するのはハバヤマボクチ(葉場山火口)と同じ。国外では朝鮮、中国、アムールに見られるという。大和(奈良県)では曽爾高原でしか見られず、これも同様であるが、個体数が極めて少なく、ススキオンリーの純血主義的な草原の管理におけるミヤコアザミの命脈にはピンチが続き、奈良県のレッドデータブックには絶滅寸前種としてあげられている。先に紹介したヒッツキアザミ(引っ付き薊)と同じように曽爾高原ではそのうち姿を消すのではないか。 写真は紅紫色の花がアザミに似るミヤコアザミ。ともに2007年9月の撮影。この2株は現在見当たらない。  往きしもの来しものそして秋の風

<1749> 大和の花 (61) ミヤマトウヒレン (深山塔飛廉)                               キク科 トウヒレン属

                

  奈良、高知、愛媛3県の標高1000メートル以上の山岳の岩場に生えるとされる日本固有の多年草で、ミヤコアザミの仲間である。茎の高さは40センチほどになり、根生葉があるが、花時には枯れてなくなる。下部の茎葉は長い柄のある長三角形で、3、40センチになる。上部の葉は小さく、柄も短くなる、柄は狭い翼状になって茎につく特徴がある。

  花期は8、9月ごろで、枝の先に多いもので数個の頭花をつける。紅紫色の花は2センチ弱と小さく、総苞には短い総苞片が見られる。私が出会ったのは大台ヶ原山で、数メートルの崖地に半ば倒れるように茎を横向きにして花を咲かせていた。崖地には2株が見られたが、今では立ち入りが制限され、確認出来ない。関東地方と四国の一部に分布するコウシュウヒゴタイ(甲州平江帯)に極めてよく似る珍しい草花で、南限の愛媛県では絶滅危惧ⅠB類に、北限の奈良県では絶滅寸前種にあげられている。 写真は崖地に横向き状態で花を咲かせる2株のミヤマトウヒレン。  太鼓台繰り出し今年も秋祭り

 

 

 

 

 


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