大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年06月06日 | 植物

<2350> 大和の花 (526) クリンソウ (九輪草)                                サクラソウ科 サクラソウ属

         

 ここからは世界に広く分布し、北半球の温帯に多いとされるサクラソウ科の草花を見て行きたいと思う。まずはクリンソウ(九輪草)から。クリンソウは山地の湿り気のあるところに生える多年草。葉は長さが15センチから40の倒卵状長楕円形で、根生し、縁には鋸歯、表面には皺があり、この葉の特徴だけでもクリンソウとわかる。

 花期は5月から6月ごろで、葉の根本から高さが40センチから80センチの花茎を直立させ、その上部に直径2センチほどの花冠が5裂する鮮やかな紅紫色の花を2段から数段輪生する。花冠は白色や淡紅色など。美しいので観賞用に植えられることが多い。クリンソウ(九輪草)の名はこの花の姿を塔の九輪に見立てたことによる。地方名にホドゲ(青森)とかホンドゲ(秋田)とあるのは花の姿を宝塔に擬えたもので、宝塔華(ほうとうげ)とも。これらの地方名はクリンソウ(九輪草)の発想に同じである。

 北海道、本州、四国に分布するとする図鑑に対し、北海道、本州(近畿地方以北)に分布とする報告がある。これについては、植栽されることが多く、純然たる自生の評価の分かれるところか。国外では野生を見ない日本の固有植物にあげられている。大和(奈良県)では春日山と金剛山の自生地が知られるので、後者の報告によれば、大和(奈良県)はクリンソウの南限地と言えそうである。

 江戸時代末に来日し、『幕末日本探訪記』を記した英国人植物学者ロバート・フォーチュンが贈られたクリンソウの花にいたく感銘した逸話はよく知られる。観賞のため植えられることが多く、それほど珍しくもないが、自生地は極めて限られているため奈良県では絶滅危惧種にあげられ、保護の対象になっている。春日山の自生地はまだ見ていないが、増えたという報告は聞かない。

 なお、全草にサポニンなどの有毒物質を含み、シカは食べないと言われるが、日干しにしたものを煎じて鎮咳、去痰の薬用にされる。 写真は群生して咲く花と花のアップ(ともに金剛山)。  生きるとは悩ましきことたとふれば共に生き得ぬ貧しさを問ふ

<2351> 大和の花 (527) オオミネコザクラ (大峰小桜)                      サクラソウ科 サクラソウ属

           

 山地の岩場に生えるコイワザクラ(小岩桜)の一種の多年草で、紀伊山地、殊に大峰、台高山脈の標高1500メートル以上の高所岩場に自生を限る日本固有紀伊山地特産の草花である。その存在がよく知られるのは天川村の稲村ヶ岳(1726メートル)登山ルートの大日山の絶壁、釈迦ヶ岳の尾根筋の岩場、大台ヶ原山の岩場など。

 草丈は極めて低く、縁が浅く5裂する葉は直径4センチ前後の腎円形で、柄を有し、根生する。花期は5月ごろで、高さが5センチから10センチの花茎を直立させ、その先に1個から数個の花をつける。紅紫色乃至は淡紅紫色の花冠は5裂し、裂片は更に浅く裂けて平開する。

  仲間には関東方面に分布するチチブイワザクラ、ミョウギイワザクラ、クモイコザクラなどがある。本種の特徴は萼裂片が三角状披針形で、先が尖り、蒴果の実が萼筒とほぼ同長で、湾曲する。全体的に毛の多いのも特徴の一つ。

 生育場所が限られ、個体数も少なく、貧弱なものが多い上、花が可憐なため山草愛好家による採取の懸念もあるとして、大和(奈良県)においては絶滅寸前種にあげられている。 写真は左から岩壁の棚で咲かせた花、蕾と咲き始めの花、果期の姿、若い蒴果(萼裂片が三角状披針形で、先が尖る)。いずれも大日山。   願はずに来しことありや旅の途の悲願の縁者たる身の祈願

<2352> 大和の花 (528) ツマトリソウ (褄取草)                      サクラソウ科 ツマトリソウ属

            

 亜高山帯の草地や林縁などに生える多年草で、草丈は10センチから20センチと小さく、花のないときは踏まれることもある。糸状の地下茎によって群生し、そこここに花を見ることがある。質の薄い葉は長さが2センチから7センチほどの広披針形で、赤みを帯びることがある。縁に鋸歯はなく、短柄を有し、互生する。

  花期は6月から7月ごろで、茎の上部葉腋から長さ2、3センチの細い花柄を立て、上向きに白い1花をつける。花冠は直径2センチ弱で、7深裂するのが普通であるが、6乃至8深裂するものも見られる。裂片は長楕円形で先が尖り、縁に微紅色の褄取りが入るものが多く、この名がある。

  北海道、本州、四国に分布し、北アメリカ、ヨーロッパ、シベリア、アラスカ、朝鮮半島など北半球の温帯から寒帯に広く見られるという。大和(奈良県)では大峰山系の標高1700メートル付近の草地に見られるが、自生地も個体数も極めて少ないとして絶滅寸前種にあげられている。  写真はツマトリソウ。芽を出したワラビ(ミヤマワラビか)の傍らに咲く花(左)、上を向いて咲く白い花(中)、花のアップ(右・その名の通り花冠裂片の先が微かに紅色を帯び、褄取っている)。いずれも大普賢岳(1780メートル)山頂付近。   梅ジュース今年は期待出来るかも

 


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