大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年06月02日 | 植物

<2346> 大和の花 (523) ノグルミ (野胡桃)                                         クルミ科 ノグルミ属

                         

 日当たりのよい林縁などに生える落葉高木で、高さは普通10メートル前後になるが、ときに20メートル以上に及ぶ個体もある。樹皮は灰褐色で、縦に浅く裂け目が入る。葉は長さが20センチから30センチの奇数羽状複葉で、小葉が5対から7対つく。小葉は5センチから10センチの披針形で、先は鋭く尖り、縁には鋸歯が見られる。

 雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。新枝の先に穂状になった花序を数個立てる。普通その中の1個が雌花序で、ほかは雄花序。雄花序は雌花序を囲むように立つ。雄性先熟で雄花が先に開花し、次に雌花が開花する。雌花序の先にも雄花序がつく。堅果の実は長さが2、3センチの卵状楕円形の果穂を形成し、翌年の花どきまで枝に残るものもある。

 本州の東海地方以西、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では西域のごく一部に自生地が限られ、注目種にあげられている。なお、樹皮や葉は魚毒として知られる。薬用は聞かない。

 写真は左から雄花をいっぱいつけた雄性期の樹冠(クルミ科で雄花序が垂れ下がらないのは本種のみ)。雄花序が散った後、花を咲かせ始めた雌性期の花序(中央の花序の下部が雌花群)。散り敷いた雄花序(雌花序の開花はこの後)。茶褐色の果穂と若葉(いずれも広陵町の麦野史跡公園内)。 野胡桃の花散り敷きし古墳径

<2347> 大和の花 (524) オニグルミ (鬼胡桃)                                        クルミ科 クルミ属

               

 川や渓流沿いなど湿り気の多いところに生える落葉高木で、高さは普通10メートル前後であるが、大きいもので20メートルを超えるものもある。樹皮は暗灰色で、縦に裂け目が入る。新枝には黄褐色の軟毛が密生する。葉は長さが40センチから60センチの奇数羽状複葉で、葉柄と葉軸に褐色の軟毛と蜜腺が密生し、小葉が5、6対つく。小葉は10センチから20センチほどの卵形乃至長楕円形で、ほとんど無柄。縁には細かく不規則な鋸歯が見られ、秋に黄葉する。

 雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。葉の展開とほぼ同時に開花する。雄花は前年枝の葉腋に長さが10センチから20センチの尾状花序を垂れ下げ、小さな緑色の雄花が多数密につく。雌花は新枝の先に直立する長さ10センチ前後の花序に10個ほど。雌花は二股に開く濃赤色の柱頭が目を引く。堅果の実は長さ3、4センチの卵球形で、毛に被われ、皺があり、秋に熟す。クルミ(胡桃)の名はこの堅い実に由来し、『延喜式』に呉桃とあるように、中国の呉から伝来した呉実(くれみ)が転じたとする説など諸説が見られる。

 北海道から九州までほぼ全国的に分布し、国外ではサハリンに見られるという。大和(奈良県)では北部を除いて、各地の川筋や谷筋で普通に見られる。なお、クルミ(胡桃)は北半球の温帯に15種ほど分布し、総称として用いられている。クルミは西洋でもよく知られ、生命のシンボルとして、ギリシャ、ローマ時代の昔から食用にされている。

  オニグルミは単にクルミ(胡桃)とも呼ばれ、ヤマグルミ(山胡桃)、ホングルミ(本胡桃)などの別名でも知られ、西洋に負けず、古く、縄文時代の遺跡から出土し、その存在がある。滋養強壮、鎮咳によいとされ、材は堅く、緻密で、家具材として利用、小銃の台木にもされるほか、胡桃油でも知られ、食用、薬用、染料と幅広く用いられ、地味な木であるが、人間の暮らしと深く関わって来た経歴を持つ。

 写真はオニグルミ。雄花序を垂らす枝々(左)。枝先に立つ雌花序と前年枝に垂れ下がる雄花序(左から2番目)、雄花序のアップ(右から2番目)、雌花序のアップ(右)。 店頭に枇杷が並んで枇杷談義

<2348> 大和の花 (525) サワグルミ (沢胡桃)                                       クルミ科 サワグルミ属

          

 サワグルミ属の仲間はアジアに8種あり、サワグルミ(沢胡桃)はその中の1つで、山地の川や渓谷沿いに生える。落葉高木で、高さは大きくなると20メートルから30メートメートルに及び、渓間に見られるトチノキ、カツラ、オヒョウなどと混生することが多く、巨木の圧倒的存在感を持って目を引く。成長の速いのが特徴で、寿命は長くなく、150年ほどと言われる。

 樹皮は暗灰色で、縦に裂け目が入り、老木になると剥がれる。新枝ははじめ褐色の毛が密生し、後になくなる。前年枝は光沢があり、小さな丸い皮目が見られる。葉は長さが20センチから30センチの奇数羽状複葉で、小葉が5対から10対つき、互生する。小葉は長さが5センチから10センチ前後の長楕円形で、先は尖り、縁には細かな鋸歯が見られる。

 雌雄同株で、花期は4月末から6月ごろ、新枝の先に長さ10センチから20センチの雌花序が垂れ下がってつき、その下側の葉腋に雄花序が数個垂れ下がる。雌花の柱頭は紅色。雄花は黄緑色であるが、私はまだ目にしていない。という次第で、写真は雌花序が果序に変化した段階のものしか紹介出来ない。実は堅果。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では中国の山東省に見られるという。大和(奈良県)では紀伊山地の渓谷沿いでよく見かけるが、北部には分布しないようである。なお、材は白色で軟らかく、家具の内ばりや下駄、経木、マッチの軸木などに用いられるという。また、生の葉を揉んで虫刺されに用いる。近縁種にシナサワグルミ(支那沢胡桃)があり、公園樹として知られる。

 写真はサワグルミ。花が終わり、雌花序が果序に変化したときの樹冠(左)。垂れ下がった果序。雄花は見られない(中)。果序のアップ。成長を始めた若い実を苞葉が抱むようにつき、守っているのがわかる。

   人生に答へなどなし いっちまった人の姿がやたらにやさし