<2115> 大和の花 (344) イラクサ (刺草) イラクサ科 イラクサ属
イラクサ科の追加3種。まずは、科名にもなっているイラクサ(刺草)から。イラクサは山地の林内や林縁などの少し湿り気のあるところに生える多年草で、高さは30センチから1メートルほどになり、全体に蟻酸を含む刺毛が生え、特に茎や長い葉柄はこの刺毛に被われている。葉は広卵形で、先が尖り、縁には大きく鋭い重鋸歯が見られ、この葉にも刺毛が生え、触ると非常に痛いのでイタイタクサ、またはイライラクサからイラクサの名は生まれたという。
雌雄同株で、花期は8月から10月ごろ。茎頂の葉腋に花序を伸ばし、上部に雌花の花序、下部に雄花の花序がつき、淡緑色の小さな花をつける。本州、四国、九州に分布し、西欧では別種のセイヨウイラクサ(西洋刺草)が見られ、昔から洋の東西を問わず、よく知られた植物である。
仲間のカラムシと同じく、茎や葉から白く光沢のある絹のような上質の繊維が取れるので、第一次世界大戦下のドイツではイラクサの加工産業が発達したほど。また、アンデルセンの童話にもイラクサの繊維で作った上着によって呪いを解く話が登場するほどこの繊維は評判がよかった。
また、食用や薬用としても知られ、本草書や薬用図鑑にもあげられ、生薬名の蕁麻(じんま)で登場する。因みに蕁麻疹(じんましん)はこのイラクサから来ていると言われる。食用としては若い苗を茹でると毒物である蟻酸が消滅し、食べられるので和え物やお浸しにし、薬用としては全草を日干しにし、乾燥したものを煎じて服用すれば、リュウマチや小児のひきつけに効能があるとされる。また、生の葉の汁は毒虫や蛇にかまれたときの痛み止めや毒消しに効くという。
昔は大いに利用され、西欧では栽培されて税の対象にもなった話が伝えられているほどで、その価値は大きいものだった。なお、奈良公園のイラクサは極めて刺毛が多く、南部地方のイラクサに比べ、50倍にも及ぶと奈良女子大の研究グループによって発表され、イラクサがシカの食害を免れるため、自ら刺毛を増やしたのではないかと言われ、注目を集めている。 写真は奈良公園のイラクサ。茎や葉柄に鋭い刺毛がびっしりと生えているのがわかる。 鹿の声奈良公園の広さかな
<2116> 大和の花 (345) ムカゴイラクサ (珠芽刺草) イラクサ科 ムカゴイラクサ属
山地の少し湿気のある木陰に生える多年草で、根は紡錘形になることが多く、茎は高さ40センチから70センチほどで、刺毛が見られる。長さが5センチから15センチほどの葉は卵状楕円形で、先は尖る。縁には鈍鋸歯が見られ、長い柄を有して互生する。葉腋にムカゴ(珠芽)が出来るので、この特徴によりこの名はある。
花期は8月から9月ごろ。雌雄同株で、雄花序は無柄にして葉腋につき、雌花序は茎頂の葉腋から伸び出た長い柄に円錐状につく。花はともに緑白色で極めて小さく、目立たない。よく似た仲間のイラクサ(刺草)は葉が対生し、ミヤマイラクサ(深山刺草)は葉が尾状に尖る違いが見られるので判別出来る。ムカゴイラクサは北海道から九州、沖縄までほぼ全国的に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。大和(奈良県)でも山地の渓流沿いでときに見られる。 写真はムカゴイラクサ(上北山の山中)。右端の写真は少しピンボケだが、下部の葉腋に茶色のムカゴ(珠芽)がうかがえる。 放たれし風船高く秋の空
<2117> 大和の花 (346) サンショウソウ (山椒草) イラクサ科 サンショウソウ属
山地の陰湿地に生える多年草で、緑褐色の茎は下部の部分で地を這い、上部は斜上し、岩場などの崖地では崖から伸び出すものも見られ、高さは10センチから30センチほどになる。葉は長さ1センチから3センチほどで、歪んだ倒卵形。表面は濃緑色で、縁には鈍鋸歯があって、両面に微細な毛があり、互生する。この葉がサンショウ(山椒)の葉に似るのでこの名があるか。
雌雄異株で、花期は4月から6月ごろ。雌株は葉腋につく無柄の花序に小さな淡緑色の花が集まって咲く。雌株が多く、雄株は稀で、私はまだ出会っていない。日本の固有種として知られ、本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、大和(奈良県)では山地で見られる。 写真はサンショウソウの雌株と雌花のアップ(奈良市の春日山)。 秋雨のさびしいほどもこの命