<1744> 大和で見かける紛らわしいアザミについて
四季に関わらず冬でも山野を歩いていると、どこかでアザミに出会う。花の時期はもちろんのこと、立枯れたり、根際の葉だけだったりしてもアザミ特有の棘の葉によってそれとわかる。そういう意味で言えば、アザミは特異な草花と言える。その特性からして、『万葉集』に登場しないのが不思議なほどである。棘を有する植物はほかにも見られ、木本ではイバラ(茨)の仲間がよく知られるが、棘の効用はアザミにしてもイバラにしてもこれは自身の防衛のためと考えられる。触れると棘が刺さって痛いから、動物にすれば近寄り難く、棘を有する側には食害から身を守ることが出来る。言わば、棘はアザミにとってもイバラにとっても生きるうえに必要な部位ということになる。
スコットランドではアザミを国花にして大切に扱っているが、この国花にもアザミの棘が関わっている。その昔、隣国のデンマークと戦火を交えていたとき、城の近くに忍び込んだ斥候がアザミの棘に刺さって倒れ、捕まえることが出来た。スコットランドはこの斥候から敵の情報を聞き出し、戦争に勝つことが出来た。このためアザミは救国の花としてスコットランド国民から敬愛されるようになり、国花に選ばれた。
つまり、これはアザミの棘の効用を言うものにほかならない。しかし、この棘も若葉のときは軟らかく、シカの食害に遭うという。亜高山に見られる落葉低木のハリブキ(針蕗)は大きな葉や葉柄に鋭い棘を有し、成長するとこの棘によって自分を守ることが出来る。しかし、若葉の開出時においてはまだ棘も軟らかく、シカの食害に遭う。これは自然(神)が生きもの全体のバランスのために個々の生きものに完璧を与えていないことを示すものと言ってよい。これが生きものの姿であり、生きものたちの世界に通底する厳しい様相と言ってよい。要は完璧でないところで生きものは生きている。私たち人間もこの点何ら違うところはない。
棘から話が自然論の方へ逸れたが、スコットランドのアザミは棘の多いヒレアザミ(鰭薊)ではないかと言われている。もちろん、単にアザミと言えば、固有種に限定するものではなく、そこには総称の認識がある。単にアザミと言ってもいろんなアザミがあるわけで、判別は極めて難しく、間違いやすいところとなる。これがアザミの世界であるが、キク科アザミ属のアザミには紛れもなく棘があって、この棘をもってアザミは認識されるところがある。どのアザミであるかはさて置き、山野を歩いていてアザミと認識されるのはこのアザミ特有の棘による。
これまで大和(奈良県)に野生するキク科アザミ属の8種のアザミを取り上げて紹介して来たが、これは私に確信が持てる範囲におけるもので、ほかにも別種か、変種か判別し難いアザミがあって、写真に収めて来たには来たのであるが、私のライブラリーには説明のつかないものが幾つかあるという状況になっている。という次第で、その写真をここに掲載したいと思いピックアップしてみた。
思うに、同じ種であっても生える場所の環境によって変異が見られるということもある。その変異の出やすいのがアザミで、これは判別に一層の混乱を招く結果に繋がっている。日本国内に野生するアザミは約100種に上ると言われる。この多さは何を示しているかと言えば、地方(地域)によって変異が多く見られることを言っている。地域イコール環境ということを考えると、アザミは環境に敏感な草花に属する。
写真左はスズカアザミと思われるが、はっきりしない(曽爾高原の尾根筋で)。次の写真は冬にも花を咲かせるアザミ。多分、ノアザミであろう。トゲアザミに近い仲間かも知れない(明日香村の棚田の畦で)。左から3番目の写真はヒメアザミとも思えるが、はっきりしない(大峰山脈の標高約1850メートルの弥山山頂広場で)。右端の写真はギョウジャアザミの変種か、もしくは雑種か。アサギマダラが来ていた(大台ヶ原ドライブウエイの標高1450メートル付近で)。
それぞれに咲きゐる花はみな時の旅をしてゐる証の姿