大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年10月27日 | 植物

<1763> 大和の花 (70) イヌタデ (犬蓼)                                              タデ科 イヌタデ属

                                          

 今回からタデ科タデ属の花を見てみたいと思う。まずは、雑草中の雑草という印象が強いイヌタデを紹介したい。この場合のイヌは蔑んだ言い方で、タデにはあらず、二流のタデだという意が込められている。所謂、食用にされるヤナギタデ(柳蓼)、別名ホンタデ(本蓼)、マタデ(真蓼)のように葉に辛みがなく、役に立たないタデとのレッテルがイヌの表現になった。イヌタデには全く立つ瀬のない評価であるが、私などには庶民派を主張して已まないそんな親しみが感じられるイヌタデの姿ではある。

  日当たりのよい草地に群落をつくって咲き盛る紅色の花は深まる秋のやわらかな日差しを受けて明るく温みのある彩に見える。稲刈りが終わった田の畦などで思い切り遊んだ子供のころの風景の中にイヌタデの群生する花はあった。私だけでなく、田舎育ちには懐かしさをともなう花ではなかろうか。花の見られないときには気にも止めないが、花が咲くと踏みつけられなくて、跨いで通ったもので、その気持ちは今も変わりないイヌタデの風景ではある。

 イヌタデは高さが大きいもので50センチほどになる1年草で、先が尖った披針形の葉を互生し、茎の上部で枝を分け、その先端部に5センチばかりの花序を出し、紅色の小さな花を多数穂状につける。その花が赤飯の米粒を思わせるところからアカマンマ、アカノマンマ、アカノママ、アズキマンマ、オコワグサ、オコワバナなどの別名、地方名がつけられている。マンマ、ママは庶民の言葉であり、幼児言葉でもある飯のこと。オコワはこわめしのことで、赤飯を言う。花期は6月から11月ごろと長いが、花の盛りは秋で、俳句では秋の季語になっている。なお、イヌタデは日本全土に分布し、温帯から熱帯に広く見られるという。 写真は通せんぼをするように群落をつくって花を咲かせるイヌタデ(左)と田舎らしさが見られる晩秋の田の畦に咲くイヌタデの花(右・後方は法起寺三重塔)。  犬蓼の花一面の通せんぼ

<1764> 大和の花 (71) オオイヌタデ (大犬蓼)                                           タデ科 イヌタデ属

            

  タデ属の花は群落をつくって生えるが、このオオイヌタデ(大犬蓼)は荒地や河川敷、池の中州など日当たりのよいところで大群落をつくり、その一帯を占拠しているのを見かける。茎の高さは犬蓼よりも大きく、人の背丈ほどにもなるのでこの名がある。葉は犬蓼に似て、先の尖った披針形であるが、6月から10月ごろにかけて咲く花は花序が少し大きく、淡紅色から白色の小花が多数つき、尾状に垂れるようにつくので、垂れないイヌタデと間違うことはまずない。

  イヌタデ同様、全国各地に分布し、アジア、北アメリカ、オーストラリアなどに見られる1年草で、個体は1年で枯れ失せてしまうので、その年の天侯に大きく左右されることが考えられる。だが、大量の種子が年々ばらまかれるので大いに繁殖するわけである。大和(奈良県)でもよく見られるタデで、吉野川の河原などでも増水すると水没する辺りに群生しているのが見られる。水量が少なくなる秋から冬場に種子を落とし発芽するからだろう。毎年繁殖しているのがうかがえる。 写真は群生するオオイヌタデと花穂のアップ(ともに吉野町の吉野川で)。右は池の中州を占拠して花を咲かせるオオイヌタデ(橿原市の溜池で)。 何れ旅に出づるものらがそれぞれにあり且つ集ふ岸の日溜り

<1765> 大和の花 (72) ヤナギタデ (柳蓼)                                             タデ科 イヌタデ属

                

  ヤナギタデ(柳蓼)はヤナギのような被針形の葉を有するのでこの名がつけられたという。水辺を好むタデで、溝や川沿いなどに群生しているのが見られる。このタデはほかのタデと異なり、葉がぴりりと辛いので、昔から香辛料の役目を負って用いられて来た。タデはタデ科タデ属の総称で、この名称は辛くて舌が爛れる意によるこのヤナギタデの特質をもってつけられたと一説にある。

  タデ(蓼)は『万葉集』の3首に登場を見る万葉植物で、その3首には穂蓼(ほたで)、水蓼(みずたで)、八穂蓼(やほたで)として見え、1首は穂に出て花になっている姿をもって女性を比喩し、他の2首は「穂積」という言葉にかかる枕詞として用いられている。穂蓼の歌では「吾がやどの」とあるからこの歌に見えるタデは野生でなく、栽培されているタデを詠んだものとわかる。これは食用のために植えられていたもので、生活実感が歌の背景に見て取れる。

  また、水蓼は1年草のヤナギタデが水に沈んで、水底で越冬し、多年生に変化して年中見られるようになり、時期を得て水上に姿を見せ、花を咲かせ実をつけるようになったものだと言われる。これはカワタデ(川蓼)とも呼ばれ、若芽を刺身のつまなどにし、その改良種を栽培したということで、『万葉集』に登場するタデはこのヤナギタデだと言われる。ヤナギタデの別名をホンタデ(本蓼)またはマタデ(真蓼)と呼ぶが、一説によれば、ホンタデやマタデは野生のヤナギタデを改良して栽培したヤナギタデの変種であるという。言わば、カワタデのヤナギタデと栽培タデを差別化し、栽培しているタデを良質の本物と見て取り、評価したものと思われる。

  日本全土に分布し、北半球に広く見られるタデで、とにかく、ヤナギタデはこの葉のピリリと辛いのが特徴で、アユの塩焼きをヤナギタデの葉と酢で作ったタデ酢で食べる風習が昔からある。天然アユの産地で知られる大和(奈良県)吉野地方のアユについて、『大和の味』(田中敏子著)は「アユの持ち味を十分に満足させる料理は、はらわたを抜かずに姿のまま塩焼きにし、焼きたてをタデ酢で食べるのが最高」と記している 写真は群生するヤナギタデ(右)と花穂をつけたヤナギタデのアップ(中、左)。いずれも下北山村の北山川の河原で)。 蓼の花旅に疲れし目にやさし

<1766> 大和の花 (73) サクラタデ (桜蓼)                                      タデ科 イヌタデ属

                          

  タデの仲間は米粒や小豆のような小花を多数穂状につけ、その花は目につくほど十分には開花せず、花自体が実のようにも見えるものが多い。そんな中で、サクラタデ(桜蓼)は開花がはっきりし、5つに裂ける花被片の花がサクラの花を思わせる美しさがあるのでこの名がつけられた。また、タデの仲間はほとんどが1年草であるのに、このサクラタデは多年草である違いがある。

  草丈は大きいもので1メートルほどになり、葉は先が尖った被針形で、やや厚みがある。水辺や湿地に群生することが多く、本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に見られ、大和(奈良県)でもよく見られる。雌雄別株で、雌花と雄花のつく株が異なり、雄花では雄しべの方が長く、雌花では雌しべの花柱が雄しべより長い。花期は8月から10月ごろで、淡紅色の花が連なり、カメラのレンズを通して見ると実に美しい。なお、白い花をつけるものはシロバナサクラタデ(白花桜蓼)と呼ばれ、日本全土に分布している。 写真は休耕の湿田に群生し花を咲かせるサクラタデ(左)、サクラタデの雄花のアップ(中)、シロバナサクラタデの雄花(右)。  殿(しんがり)を競ふ今年もタデの花

<1767> 大和の花 (74) ハナタデ (花蓼)                 タデ科 イヌタデ属

         

  ハナタデ(花蓼)は林縁や薮の傍など少し湿ったような草叢に群落をつくって生える1年草のタデで、別名をヤブタデ(薮蓼)という。このタデはタデの中でも変異が多く、生えるところによって別種かと思われるようなものも見られる。ほかのタデに比べて一つ一つの花が小さく、これが印象的なタデで、その名にハナ(花)が冠せられたのは小さいけれどもれっきとした花であることを主張したかったからではないかと想像される。例えば、「吾もまた紅なり」というワレモコウ(吾亦紅)の命名譚に似るところがうかがえる。

 茎の高さは60センチほど。根は地を這って広がり、群生する。葉は卵形から長卵形で、先端は尾上に尖り、互生する。花期は8月から10月ごろで、冬に入っても見られるものがある。花序は細長く、淡紅色のミリ単位の花をまばらにつけるが、白色が目立つ花もある。日本全土に分布し、東アジアに広く見られ、大和(奈良県)でもよく見かける。 写真は群生して花を咲かせるハナタデ(左)、露に濡れる穂状の花(中)、花のアップ(右)。金剛山の登山道など。  斯くはある生の一端草木も鳥獣虫魚も人たる我も

<1768> 大和の花 (75) ボントクタデ                                                             タデ科 イヌタデ属

                                   

  ボントクタデは、ホンタデ(本蓼)やマタデ(真蓼)、つまり、葉がぴりりと辛いので香辛料の役目を果たし食用に供される本当のタデ、真のタデと評価が高いヤナギタデ(柳蓼)に対し、辛みがなく役に立たないつまらないタデの認識により、その意の「ぼんくら」から生まれた名であるという。ヤナギタデによく似ているが、葉に辛みがなく、用に応じることが出来ないため、蔑まれたわけである。これはイヌタデ(犬蓼)の名と同様で、「蓼食う虫も好き好き」だが、辛くないのは評価されない現実がタデの世界にあることを物語っている。

  高さが1メートルほどになる1年草で、葉は被針形に近く、枝先に細い花序を出し、小さな花をまばらに連ね、垂れさがるような姿がヤナギタデそっくりで間違いやすいところがある。また、本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮、中国、インド、インドネシアなどに見られるという。川筋や溝の傍などに生える点はこれも日本全土に分布するヤナギタデに似て間違いやすいところがある。だが、相違点は全体にボントクタデの方がひと回り大きく、花の色が白いヤナギタデに対し、淡紅色であること、決定的な違いは前述のとおり、葉を噛んでみればわかる。ボントクタデの葉には辛みがない。 写真は茎が赤褐色のボントクタデ(左)と開花した花のアップ(右)。花序の先端が垂れ気味になり、花は淡紅色である。

        評価というのは基準による

        この基準に適うかどうかが

        評価を左右することになる

        花に対する貴方と私の評価に

        異なりが生じるというのは

        貴方と私の基準の違いによる

        こういう意味において見れば

        正しい評価などというのは

        なかなか言えるものではなく

        覚束ないということになる

        評価はつまり基準の如何による

<1769> 大和の花 (76) オオベニタデ (大紅蓼)                                         タデ科 イヌタデ属

                                      

  インドや中国などアジアが原産の1年草で、高さが2メートルにも達する大形のタデである。広卵形から卵形で、基部は心形の葉も大きい。江戸時代に観賞用として渡来し、栽培されて来た全体に毛の多い淡紅色から白色の花を咲かせるオオケタデ(大毛蓼)の仲間で、よく民家の近くの畑などで見かけるが、ときに逸出して空地や荒地などに生え出し、野生化したものも見られる。

  花期は7月から11月ごろと長く、明るい紅色の花が枝先の太い穂状花序に密集してつき、垂れ下がって鮮やかに見える。その花の色が印象的で、この名があり、ベニバナオオケタデ(紅花大毛蓼)の別名にも花の色の印象がうかがえる。 写真はともにオオベニタデの花。日が当たると紅色の花は一段と鮮やかに輝き映える。 紅蓼の花鮮やかな紅の色夢幻幻想想念の中(うち)