<1128> 電車での出来事
子らの声 にぎやかにして 通りゆく 実りの秋の 穂向きのやうに
今日の話はJR大和路線の車中でのことである。この間、久しぶりに電車に乗った。車中には小学生の一団が見られ、持ち物や服装で遠足に向かうところだとわかった。座席は埋め尽され、扉の近くにも子供たちが多く見られた。私は奥へ進み、体の支えが出来るところまで入ったところ、一人の男の子が席を立って「どうぞ」と私に声をかけて来た。とっさのことで、ピンと来ず、「いいよ」と言って断ったが、男の子は繰り返し「どうぞ」というので、私は気づいてハッとした。
そうだ、自分は年寄りなのだ。大病はしたけれども、足腰は悪くないし、立っていて苦痛もない。持続力は年々衰えてはいるが、まだ山歩きも出来る。そういう気分でいたから全く席を譲ってもらうというような気分はなかった。私がハッとしたのは、私が年寄りに見られているということに気づいたからである。こういう年寄りの立場になるのは初めての経験で、気づいた途端ショックを覚えたが、子供が年寄りに寄せる好意には応えるのがこちらの礼儀だと思い、少々大きい声で「ありがとう」と言って席を譲ってもらった。
ところが、席は二人掛けで、奥の窓側に一人の男児がいた。私はその子が、その場で気まずい気分に陥ったのではなかろうかと気になって、「どこから来たの」と私の方から声をかけた。すると、男児は「泉大津」と顔をあげて答えた。その顔が明るく元気に見えたのでホッした。五年生で、奈良に行くという。奈良公園を歩いて東大寺の大仏さんでも見に行くのだろう。いい思い出が出来れば何よりだと思ったことではあった。帰ってこのことを妻に話したら、「子供から見れば、おじいちゃんなのよ。ハッハッハッ」と笑われてしまった。写真はイメージ。遠足の子供たち(車中で出会った小学生の団体ではない)。