<7> 滝 水
太郎には ことさらの夏 老い深く
近所に十六歳になるという雄の老犬がいる。太郎とはこの老犬のことで、本名はチヤピーというが、私は勝手に太郎と名付け、そう呼んでいる。若いときは元気いっぱいよく吠えて番犬の役目を果たしていたが、この三、四年その声を聞かなくなった。年老いたためだろう。その老いが最近とみに進み、白内障で目がほとんど見えず、そそうもするらしい。歩くのも覚束なく、坂道は下りが駄目になったと聞く。ときに奥さんと散歩するのを見かけるが、よたよたとしているのがわかる。
この夏は節電のプレッシャーもあって、昨年にも勝る暑さを感じたのであったが、老犬の太郎には一入であったろうと思われる。太郎には写真で登場願ってもよかったが、これは太郎の名誉に関わることでもあり見送りにし、涼しい滝の写真にした。句と写真のそぐわない点が気になっていたら途端に涼しくなった。これで私たち人間も一息ついて涼しい滝の残暑お見舞いも用なしの形になったが、老犬の太郎にはありがたい季節の変化ではなかろうかと思う。ではもう一句。私の心の中の太郎を思いつつ。 写真は十津川村七色の十二滝。 老犬に 滝の飛沫を 見舞ふなり