くるま旅くらしでは、移動費用がかなりのウエイトを占めることになります。旅くらしのコストを少なくしようとするならば、移動を抑えるスタイルを選択することがキーとなります。そういうわけですから、給油所に対しては知らず知らず関心が高まります。
私はマーケティングという視点から世の中の商売を見ることにしていますが、今回はその俎板に給油所(ガソリンスタンド)を取り上げたいと思います。
一くさり、マーケティングの話をしますが、小生の理解では、マーケティングというのは、生産者と消費者をつなぐ全てのプロセスにおけるヒューマンリレーションを言うのだと思っています。マーケティングは大別すればマス(1対多数)とワンツーワン(1対1)に区分できますが、今までの大量生産・大量消費の世の中では、その殆どはマスマーケティングの発想で動いてきました。マス・マーケティングは顔の見えないお客様に商品をアピールする関係ですが、ワンツーワンマーケティングは顔の見えるお客様に対して働きかけるスタイルをとります。現在では例えばITなどの技術革新によりワンツーワンのマーケティングが力をつけつつあるように思います。そしてこれからの商売は、ワンツーワンマーケティングの発想をどれだけ上手く活用できるかが、その成功のキーになるのではないかと考えます。
さて、そのような理屈をもって、世の中を旅をしながら漂っていますと、様々なものが見えてきます。世の中の全ては人間と人間との係わり合いによって成り立っているのですから、どのような場所の、どのような世界に行ってみてもマーケティングの視点は成り立つのです。このような目で世の中を見て行くと、様々なものが見えてきて実に面白いのです。
今回はその入り口として、全国に点在する給油所のあり方についての感想を少し述べてみたいと思います。
商売が上手か下手かは何で決まるのか?それは極論すればお客様を大事にするか否かで決まります。この考え方をCL(Customer Loyalty=顧客第一。顧客忠誠)と呼びます。即ちCLの感性が高ければ高いほど優れた経営が構築可能となります。最近話題の菓子メーカーや消え去った乳業メーカーなどは、CLの発想を置き去りにした結果であるということが言えると思います。
最近はセルフスタンドなるものが数を増してきました。人力がカットできる分だけ価格が安くなっていますので、私のような年金旅くらし人は、より多く利用させて頂いています。このセルフスタンドなのですが、いろいろな商売の仕方があって、感心するのもあれば怒りをさえ覚えるものもあります。つまりCLの発想をどれだけ理解して商売しているのかということなのですが、その実態に関して少しコメントをして見たいと思います。
商売の原点を忘れているんじゃないの?というのが、価格表示をしていないスタンドです。これがこの業界では結構多いのです。セルフということを高らかに宣言し、出血サービスだとかなんだとか派手に幟を揚げたりして騒いでいるのですが、肝心の価格の表示が何処にもありません。価格の表示は、お客様に対する必要最小限の仁義だと思います。それをしないのは、人道にも反するというのが私の見解です。ですからそのようなスタンドでは、絶対に給油をしません。消費者にどのような誠意を示すかは、半端な飾り文句だけでは通用しないということを、このような店は反省すべきと思います。
価格の表示をしないで商売が出来る世界は限られていると思います。金持ち相手の商売は価格よりも品質やブランドなどが優先すると思いますが、一般大衆を相手の商売では、価格はお客様が購入の是非を判断する際の最大の基準となるものだからです。
旅をしていると、この仁義に反する商売を行なっているエリアがだんだん分かってきました。価格表示無しのエリアは、地方へ行くほど広くなる実態があるように思います。給油所の経営が、どのような仕組みで行なわれているのかは分かりませんが、私の考えでは、供給に関わる大手のサイド(元売企業)の配慮が怠慢のような気がします。小さなスタンドでは、経営のノウハウなど何も知らないまま油を販売しているように思われますので、せめて価格表示くらいは必須要件だということを指導すべきと思うのです。
想像するに、石油の供給も販売も限定された条件の中で行なわれているので、車の所有者は、それを動かすためには、どれほど油が高くなっても油を購入せざるを得ない、という当然の発想が業界の中に隠然とあって、原油の輸入価格が上がれば最終的には消費者に負担させれば良いということなのかも知れません。
しかし、現実の給油所の競争を見ていると、閉鎖に追い込まれている店が結構多いのは、単に業界の仕組みだけではなく、CLの感性を置き忘れかけている部分が表出した結果なのではないか、という気がします。
地方の交通不便なエリアでのスタンドの存在はありがたいものですが、価格も表示しない店では、車を止める気は起きません。車というのは、少し走れば都市部でも何処へでも行けるのです。価格表示が全てでは決してありませんが、顧客への仁義を忘れ、何の経営努力もしない店は、遠からず消え去って行くような気がします。