山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

出会いのメモリー(旅のエッセー):妹背牛の一夜(その1)

2007-02-17 01:43:44 | 宵宵妄話

「妹背牛」とは何のことかご存知だろうか ? 牛の品種名ではなく、牛にちなんだイベントでもない。その前にこれを何と読むのか?もし、何の予備知識もないのに一発で読めた人がいたとしたら、あなたはまともな日本人ではないのでは? 私はそう思う。

しかし、北海道に棲む、そしてこの町に棲む人たちにとっては、私の発言は裁判所に持ち込まれるほどの問題となるかもしれない。そう、「妹背牛」とは地名であり、れっきとした北海道は空知支庁、雨竜郡に属する町の名なのである。「モセウシ」と読む。

妹背牛町は、旭川の南西部30㎞ほどにある、深川市や滝川市などに隣接する、北海道としては面積の小さな(4番目に小さいそうだ)、人口約4千人ほどの町である。地図を見ると、石狩川と雨竜川が、町半分の境界線となっていて、残りはこの二つの川が生み出したのであろう広い沃野に隣接する市や町との直線的な仕切りとなっているようだ。この辺りは山の全く無い豊かな穀倉地帯で、隣接する深川市では、深川米というブランド米の宣伝に力を入れているが、この妹背牛町の米も引けを取らない品質に違いない。米だけではなく、野菜や花卉類などの栽培も盛んなようである。

この街に迷い込んだのは、全くの偶然であった。午後も遅くなった雨の中を、旭川を出て深川の道の駅に立ち寄り小休止した後、さて今日はどこに泊まろうかと思案(これはくるま旅くらしの毎日の出来事でもあるのだが)をしたとき、近くに妹背牛という所があり、そこに自噴の温泉があるというのをガイドブックで知り、そこへ行ってみることにしたのである。宿泊の可否は、行ってみて決めるというのが毎度のやり方なのだ。

薄暗くなった道を、地図を頼りにようやくその温泉施設を探し当てた。明るい内ならば直ぐにわかるのだろうが、暗くなると視野が狭くなって見落としが多くなる。ましてや雨降りとなると、自慢の勘も働きが極端に鈍くなる。その温泉施設には、ペペルという妙な名がつけられていた。どうやら町役場に隣接しているらしく、広大な駐車場があり、かなり多くの車が駐車していた。100台以上はあったと思う。この温泉施設が多くの人に愛されているというのがわかる。雨の中をわざわざ出かけて来ているというのがその証であろう。

我々も早速利用させて貰おうと一人500円也を払って入る。旅くらしの中で、何よりの楽しみの一つが温泉に入ることである。北海道にはたくさんの温泉があって、しかも料金が安く、500円を超えるような所はあまり無い。我々は年金くるま旅を目指しているので、500円を超えるような温泉には特別の理由が無い限り入らないことにしている。このペペルは、ぎりぎりの料金だけど、自噴の温泉だというし、きっと満足できるに違いない。

そう思いながら入り口のドアを開けて中に入った。湯気の中に大勢の人がいた。子供が多いのは、家族連れで町の湯を楽しみに来ているからなのであろう。湯に浸る。いい湯だ。満足、まんぞく。約1時間湯気と喧騒の中に身を置いて、充分に温泉を味わって車に戻る。

車に戻って、さてどうしようか。ここは宿泊OKなのかどうかわからないけど、広大な駐車場だし、特に断らなくとも大丈夫だろうと勝手に判断して、一晩ここにお世話になることに決めた。何時ものようにビールで一杯やって、ヤレヤレと少し落ち着いて、さて音楽でも聴きながらゆっくりするかと考えていると、俄かにくるまの天井が騒がしくなってきた。雨は温泉に入る前から降り続いていたが、音を立てるほどではなかった。それがいきなりもの凄い降りとなったのである。

雨の降り様を表わすのに、「沛然」という言葉があるが、この猛烈な降り具合は、沛然のイメージをぶち壊して突き抜けるほどの強烈さである。滝の裏側に入ったような感じだ。実際そのような所に入ったことはないが、水の塊が落ちているのだから、その騒音はもの凄いに違いない。降水量で言えば、1時間あたり100ミリくらい、音の大きさで言えば100デシベルを超えるほどになるのではないか。とにかく最近では、いや今までの経験にない雨の降り様だった。もう、うるさくてどうにもならない。

キャンピングカーの天井は、薄い鉄板に何か知らないけど樹脂をコーティングしてある程度の代物だから、その直ぐ下にいる我々は、もろにその音響効果を味わわなければならない。このような状態にあると、人間の思考は停止し、不安を越えてがやがては諦めへ、そして開き直りへと向かうようだ。話すことばも無く、ひたすらにその轟音に耐えるのみであった。

かれこれ1時間近くもその猛烈な雨降りが続いたであろうか。ようやく普通の降りに戻り始めた頃は、22時を過ぎていた。やれやれと気を取り直して、外を見てみると、営業時間の終わった駐車場には、この施設の営業車以外は1台の車も居らず、我々だけになっていた。天気予報の情報が無いので、この後どうなるのかよく判らないけど、どうやらこの雨は明日まで降り続くようである。ともかく2階の寝床(=バンクベッド)にもぐりこむことにした。

さて、うまく眠れるだろうか?一気に消音のような状態ならば眠リ易いのだが、天井を叩く断続的な音響は安眠にはつながりそうも無い。しばらくはあれこれと考えごとをすることになる。旅に出ると、このようなことには慣れているので、イライラせずに、むしろそれを楽しむようにしている。頭に思い浮かぶのは、妹背牛と言うこの変ちょこりんな地名のこと、そしてそれにつながる北海道の漢字表記地名の異常さのことであった。

もともと鈍感な方で、例えば札幌という大都会の地名など当たり前に考え、何の疑問も抱かないで来ていたのだが、6、7年程前から北海道を旅するようになり、いろいろな所を訪ねるようになってから、どうもしっくりこない呼び名が多く、気になり出していた。(明日へ続く)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする