山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

しまなみ海道の島々滞在記から(その3:海に架かる大橋の散歩)

2007-02-05 00:45:46 | くるま旅くらしの話
その3です。

<名橋「多々羅大橋」を3日連続で往復する>

多々羅大橋は生口島と大三島に架かる世界一の斜張橋です。生口島は広島県、大三島は愛媛県ですから、この橋は県境にあり且つ中国と四国を結ぶ橋でもあります。この橋を3日連続で往復したというのが次の話です。

多々羅大橋は、全長約1,480m。斜張橋としては世界一だと聞きましたが、斜張橋というのは、支点となる高塔から斜めに張ったケーブルで橋桁を支えるもので、安定性に優れるという特長を持つとのことです。瀬戸内に架かる多くの橋は斜張橋ではなく、ケーブルを真下に垂らして橋桁を支える吊橋の構造となっているようです。斜めにケーブルが幾つも出ている様子は、大鳥が翼を広げたような感じがあり、とても美しいものです。確か室蘭だったか、白鳥大橋という海に架かる橋があったと思いますが、多々羅大橋も又白鳥が大きく羽ばたく様を思わせるスケールの大きな橋です。

この橋の大三島側の袂(たもと)近くが公園になっていて、そこに道の駅があり、私たちはこの道の駅にお世話になることが多かったのでした。
道の駅の駐車場に車を止め、10分ほど坂を登ると、多々羅大橋の入り口に着きます。橋には歩道と車道があり、歩行者は無料で橋を渡ることが出来ます。バイクや自転車の人は有料で歩道脇の道を通行することになっています。3日間通いましたが、我々の他に歩いていた人を見かけたのは、たった一人だけでした。バイクや自転車の人は何人か見かけましたが、ほんの僅かでした。つまり、よほどの用がある人か或いは物好きでないと、この橋を歩いて渡ろうなどとは殆どの人が考えないのでしょう。

初日、その入口から歩き始めたときは、正直言って渡り切れるかどうか心配でした。というのは、好奇心は人一倍ですが、高所恐怖症の気があり、高い所は苦手なのです。ましてや揺れのある橋を渡るのですから、思わず心拍数は数を増します。以前来た時は、大三島側からではなく、生口島側の瀬戸田PAから渡ろうとして、半分ほどで引き返したという実績(?)があります。今回は何としても往復してみたいと、相棒共々覚悟をして臨みました。

さて、いよいよ歩きの始まりです。それにしても巨大な橋です。下を見ると中央辺りは潮流が渦を巻いているのが何とも不気味です。遠くを見ると、左右に瀬戸内の島々が幾つも連なり、海には時々大型の船も行き交っているのが見えます。いい眺めです。しかし、脇の車道を走る大型のトラックが風を切って通過する度に揺れを感じ、更に中央に近づくに連れ、大型の船が荒波に揉まれる様な感じの.薄気味の悪い揺れを感じて、足元が覚束なくなるのでした。

真ん中近くまで来ると、ケーブルを吊っている大きな塔があり、そこで不思議な現象を体験することが出来ます。これは以前来た時に知ったのですが、何とその場所へ行き、手を合わせてポン!と拍手を打つと、ウオーン!と大きな反響音が返ってくるのです。「多々羅鳴き龍」と名付けられたその場所は、不思議な空間でした。日光の東照宮の鳴き龍は有名ですが、この多々羅鳴き龍は日光のそれとは比べものにはならないほどの壮大なスケールです。橋の下を見る怖さをしばし忘れて、何度かその巨大な反響音を楽しみました。

その後はおっかなびっくりの前進です。途中から相棒の歩くスピードが早くなり出しました。普段の速さの倍以上のスピードで先行しています。これはどういうことなのか? ここへ来れば誰でもわかることなのですが、橋の向こう側へ到達しなければならないとなったら、とにかく一刻も早く通り抜けたいという気持ちが、下を見、揺れを感ずる度に強くなるのです。とにかく周りをゆっくり展望する余裕などとてもないのです。いやはや笑い事ではなく、人間はそのような怖い想いの虜(とりこ)になると、これは又実に他愛のないもので、斯く言う私自身も相棒の後を脇目も振らぬ心持ちで続いているのです。20分ほどで瀬戸田側に着いた時は実にホッとした気分でした。

瀬戸田町にはミカン畑が広がるのどかな風景が広がっています。先ずはPAまで行って、今日は名物の蛸飯などを賞味する考えです。今来た橋の方を振り返ると、銀色のその巨大な建造物は何事もないように大三島に向って道を広げて建っていました。あそこを渡ってきたんだ!という何ともいえない満足感が心を満たします。

瀬戸田のミカン畑は本当に牧歌的です。「みかんの花咲く丘」という童謡がありますが、あれは確かこの辺の状景を歌ったものではないでしょうか。たわわに実った黄金色のミカンの木々の向こうに、真っ青な海が輝いています。そして沖には行き交う船が望見できるのです。本当に癒される風景でした。ミカン畑の道脇には取り立てのミカンを販売する無人の売店があり、100円を入れると数個のミカンをゲットすることが出来ます。まるで天国のような感じでした。

ミカンを頬張りながら、しばらく坂道を登り下って行くと、瀬戸田PAに到着しました。ここは蛸飯が名物です。さっそく食堂に入り、蛸飯と蛸天うどんというのをオーダーしました。相棒と半分こしながら食べましたが、蛸飯の方が美味かったのは予想通りでした。

お昼を終え、PAからの景観を楽しんだ後は、再び橋の復路にチャレンジです。来た道を戻るのですが、かなり余裕が出てきたのは経験がものを言うからなのでしょう。橋の入り口から、今度は時々相棒とムダ口を叩きながら歩き始めました。橋の袂の遙か下に山もみじの木らしいのが何本かあって、それが紅葉の真っ盛りなのが美しく見えます。橋の中央辺りに来ると、やはり多少の穏やかならぬ気持ちは禁じ得ません。それでもかなり余裕を持って下の潮流渦を覗くことが出来るようになりました。今日は天気が好いので、海の青に空の青が連なって、ほんとにいい気分です。鳴き龍をもう一度楽しんで、20分ほどで復路も無事に戻ることが出来ました。いやあ、満足です。恐怖心よりも好奇心の方が勝ったことに満足です。


2回目はその翌日。この日は雨模様で、どうするかしばし迷ったのですが、大した降りにはなりそうもないと判断し、傘持参で歩くことにしました。一昨日の宿泊場所は、橋の袂にある道の駅「多々良しまなみ公園」でしたが、昨夜は大三島にあるもう一つの道の駅「しまなみの駅御島(みしま)」に泊りました。

早朝に道の駅に隣接する大山祇(おおやまずみ)神社に参拝し、楠(くす)の巨木に心を打たれたあと、食事は多々羅大橋を見ながらしようと再び多々羅しまなみ公園の道の駅にやってきました。どんなに粗末なものを食べていても、ここへ来ればリッチな気分になります。

9時過ぎ、出発です。昨日と同じ坂道をゆっくりと歩きます。何しろ橋はかなり高い所にありますから、入り口まで行くのが結構きついのです。急いで歩くとその後が問題となってしまいます。今日は天気が悪く、橋の入り口から見下ろした瀬戸内の海は鈍色(にぶいろ)をしていて、昨日とは大分違った景観でした。風もかなり強くて、うっかりすると帽子を飛ばされてしまいそうです。しかし、昨日の経験が大きな自信となっている所為か、昨日の初めほどの恐怖心はありません。

鳴き龍を楽しんでしばらく歩いていると、橋の中央にに差し掛かった頃に突然胸のポケットが鳴って、メールが入りました。誰だろうと開けてみると、親友のKさんからでした。旅の状況を知らせろという内容でした。さっそく歩きながら返信に取り掛かりました。都会の真ん中なら、歩きながらメールを打つのは危険な行動となりますが、ここではその心配は全くありません。誤って海に落ちる心配もありません。今まで歩きながらメールを打ったことはなく、初めての体験でしたが、面白いなと思いました。それにしてもこの巨大な橋の上からメールを打っているなど、Kさんには想像もできないことでしょう。うんと羨ましがらせてやろうなどと怪しからぬふざけ心が頭をもたげるのを押さえるのに苦労しました。

何事もなく、相棒のスピードも平常ペースに戻ったままで橋を渡り終えました。車を出てから瀬戸田のPAまで約2kmほどの行程です。景観を楽しみ、歩くことを楽しみながら30分ほどでPAに到着しました。PAの入り口の所にヒマラヤ桜という名の冬桜が何本か植えられていて、それが僅かですが花を咲かせていたのが印象的でした。今日は食事はせず、相棒が「塩餅」というのをゲットしていました。

一休みの後復路に向かいます。途中の無人売店で青いレモンをゲットしました。ミカン畑もよく見ると何種類もの柑橘類が植えられており、レモンの栽培も盛んに行なわれているようです。レモンといえば黄色いものという感覚がありますが、新鮮なレモンは青いのです。それを市価の半値以下で手に入れられるのですから、感激です。

レモンの入った袋をぶら下げながら、何事もなく当たり前のように橋を渡って車に戻ったのは12時少し前でした。心配していた雨にも降られず、2回目の多々羅大橋往復は終了です。


3回目はその翌日。もう、ここから先はくどくなるので、記述は簡略化します。今日も雨模様の曇り空で、まあ、大丈夫だろうと傘を持参することもなく出かけたのですが、この日は帰りに一時雨に降られて、往生しました。曇りの時には傘は必携なのだということを思い知らされました。また、この日は瀬戸田PAで小さなラン(デルフィニュウム)の鉢植えを買ってきました。この花はとても丈夫で、その後の旅車の中をずーっと飾ってくれ、現在でも健在です。

さて、このようなバカバカしい行為を、私たちは敢えて楽しんでいます。旅くらしには時間がたっぷりあります。今まで出来なかったいろいろなことにチャレンジすることが可能です。旅の仕方にはいろいろあって、夫々が好きなように時間を使えば良いことですから、とやかく言うべきことではないと思いますが、一つの楽しみ方として、走りの中に出来るだけ歩きを取り入れることを私たちは心がけるようにしています。車での走りばかりでは、例えば観光地の見物でも、思い出や感動は一時的で薄いものとなってしまうような気がします。時間をかけて、自分の足を使って動くことによって、より多くの出会いのチャンスが生まれるような気がするのです。

たくさんの場所を訪れ、全国を廻ったといってもただそれだけでは何か勿体ないような気がします。世の中はスピードを落とせば落とすほどよく見えてくる、というのが持論ですが、旅くらしは、車ばかりに依存するのではなく、時には歩き、時には停まっての時間をより多く持つことが大切なのではないかと思うのです。

多々羅大橋を3日も散歩道として使わせて頂けたことに感謝しています。このような贅沢な楽しみがくるま旅くらしの醍醐味なのではないかと思っています。
コメント (3)
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