山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

しまなみ海道の島々滞在記から(その2:鯛めしの話)

2007-02-04 00:20:40 | くるま旅くらしの話
第2回目です。

<釣り上げた鯛で鯛めしをつくり美酒にうつつを抜かす(因島にて)>


因島には2泊しましたが、最初の日は久しぶりの釣りにチャレンジしました。早朝手元が明るくなるのを待って、6時ごろ車を出て200mほど先の岸壁に出かけました。相棒(=家内)は斑(まだら)眠りの真っ最中です。

地元のお年寄りの釣好きが何人か車でやってきて、早くも釣の準備をしていました。逸(はや)る心を抑えながら、竿を出し、リールを取り着け、餌をつけて最初の一発を投げ込みました。今回は2本の投げ竿を持参しましたが、1本よりも釣れる確率が倍になるなどという浅はかな欲心がどこかにあります。ご老人たちは皆さん浮き釣りで、自分の近くには誰も来ておりません。若しかしたらここは投げには向いていない場所なのか?それともご老人たちは投げ釣などする体力はないのか、など勝手な想像が頭の中を駆け巡ります。

その昔四国に転勤で在住した時には、いろいろな釣に挑戦しましたが、晩秋から冬にかけての季節は、専ら投げ釣りでカレイ等を狙うことが多かったのを思い出します。投げが得意で、あの頃は軽く100m以上は飛ばしてそれだけで悦に入っていたものでした。今日はそれほど飛ばす気は起きませんが、それでも少しでも遠い方が、魚がたくさんいる様な気がして、投げにも力が入ります。

投げ始めて3度目ほどの時に、手応えがありました。潮が動き始めた時なので、魚たちも動き始めたのでしょう。シメシメ、とリールを巻く、この瞬間が釣りの一番の醍醐味です。ワクワクするのは、還暦を遙かに過ぎても変わりはないのです。さてさて、手ごろな重たさに酔いながら挙げてみると、何やら棒状の魚が掛っています。何だろうと手許に引き寄せてみると、なんとキスではありませんか!この季節にキスが釣れるなんて。しかも25センチもある良い型なのです。嬉しかったですなあ。

期待は益々膨らんで、投げるのに力が入ります。しかしその後しばらくは獲物はなく、上げ潮に乗って上がってくる藻草ばかりが引っかかって、釣りの邪魔ばかりしていました。更に何投目かを上げようとすると、ヨッ、今度は魚らしい何かが掛った予感がしました。少し重いのですが、その重さが違うのです。ワクワクしながら引き寄せ、上げてみると何とダブルで鯛らしきものが掛っているではありませんか!そのうちの大きい奴は、20cmを超えているのです。小さい方はその前に何匹か上げた鯛の稚魚ともいうべきもので、もって帰るレベルではありません。しかし20cmを超える奴は充分に賞味に耐えることが出来ます。それにしても投げで鯛を釣ったというのは初めてのことです。釣船に乗って外海に出て行ってもなかなか釣れないのが鯛だということは充分承知していましたので、このヒットは望外の喜びでした。

その後はさっぱりでした。しかし大きなキスと小ぶりですが賞味に耐えられる鯛を1匹ゲットしたことで大満足でした。今日のところはここまで、と余った餌を大事に抱えて車に戻りました。途中の岸壁ではご老人たちに混ざって一人のおばさんが、撒き餌の釣りをしていましたが、他の男性を尻目にサヨリを100匹近くも釣り上げていました。魚は男性よりも女性の方に釣られたいと願っているようでした。

さて、車に戻って、一段落した後は、獲物の調理です。今日はいい天気で、車の直ぐ傍に広がる海は、真っ青に光り輝き、近くを見上げれば昨日歩いて往復した因島大橋が天に聳(そび)えています。このキャンプ場は橋の袂につくられており、現代の瀬戸内らしさを味わうのには最高のロケーションにあるのです。それらを見ながらコンロを取り出し、準備に取り掛かりました。鯛と白ギス1匹ずつですから、単純に焼くだけでいいと思い、内臓の処理をして、網に乗せ焼き出しました。焼き上ったらそれを肴にさっそく一杯やる目論見です。間もなく11時を過ぎようとしています。

焼き出し始めて途中で、ふっと何故か鯛めしのことを思い出しました。どこかで見た野外料理のレシピのことが頭を過(よ)ぎったのでした。そうだ、焼いたものをただつついて食べるのではなく、鯛めしという奴を作ってみよう、と思い立ったのでした。軽く焼き上げて、米を研いで入れた釜の中に入れ、炊き込むことにしました。本当はこの中にお酒を少し入れると肴の臭みがとれるらしいのですが、お酒の方は早や在庫切れです。鯛の大きさが、尻尾を除くと丁度釜の大きさと同じくらいになり、好都合です。火を入れて20分ほどで完成です。相棒は白ギスの塩焼きを美味い美味いといいながら平らげていました。

炊き上がって、上々の出来具合でした。少し早や目の昼食ですが、ビールで乾杯して出来上がった鯛めしを肴に、さあ、二人だけの宴の開始です。いヤア、さすが鯛は鯛だなあと思いました。急な思いつきの割には鯛もご飯も、これ美味なり、でした。昼間からビールを2、3本飲(や)って、すっかりいい気分になりました。久しぶりの投げ釣りで、思いもかけなかった鯛を釣り上げ、思ってもいなかった鯛めしなどに与(あずか)って、最高の気分でした。瀬戸内の島にきてよかったなあ、と改めてこの幸運を喜びました。店で買えば、僅かな値段の鯛でありましょうが、我々にとっては、恵比寿様が抱えている大きな鯛と同じくらいの価値のある嬉しい海の幸でした。

島くらしの始まりは鯛めしのご馳走からでした。その後はすっかりいい気分になって、早々に午睡を貪り、心行くまで怠惰の喜びを味わったのでした。人生、毎日がこのような楽しみの連続であれば、たちまち恍惚の人と成り果ててしまうと思いますが、時には一切のストレスを放棄するためにもグータラな快楽が不可欠だと思います。
コメント
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