山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

ウトロの巨岩

2014-10-17 05:33:23 | 旅のエッセー

 この頃道東へ行くと必ず訪れるのが斜里町のウトロである。ウトロは、世界自然遺産に登録された知床探訪の起点となる場所の一つであり、観光船などの基地は反対側の羅臼よりもこちらの方が本拠となっているようだ。ウトロエリアは羅臼側に比べて平地の面積が多い分だけ恵まれている様である。

 ウトロには巨岩が多い。そもそもウトロとはどういう意味かと言えば、「岩と岩の間の狭い道を通って行く場所」ということであり、アイヌの人たちはそのような場所をウトロチクシと呼んだという。それが日本語では宇登呂と表記されることとなった。この漢字には何の意味もなく、ただアイヌ語をいい加減な表音漢字でなぞっただけである。北海道の地名は殆どがこれと同じようにして作られており、漢字で地名の由来を考えようとする時には全く役に立たない。ま、中には新十津川町や伊達市などのように、本土からの開拓者たちが故郷を思いながら名付けた場所もある。しかし、それはほんの僅かに過ぎない。

 その宇登呂だが、自分的にはアイヌのことばはいわば外国語のようなものであり、無理に漢字を当てはめて表記するよりもカタカナで書いた方がしっくりするように思っている。それで、ウトロと書くことにする。前述のとおり、ウトロには海岸付近に巨岩が多く見られるのだが、その中で何と言っても目立つものといえば、オロンコ岩とゴジラ岩であろう。この二つは初めてウトロを訪れた人には、真っ先に目に飛び込んでくる異様な風景を形成している。オロンコ岩は誰でもすぐに気が付く筈だが、ゴジラ岩の方は見る場所によって変化するので、もしかしたら観光バスで観光船乗り場の方まで直行してしまった人には気付かないかもしれない。しかし、その近くには三つ目の巨岩の三角岩を見ることが出来る。三角岩はウトロの町側からは一番奥の方にあり、観光船乗り場の近くに位置している。この他にも幾つかの巨岩があるようだけど、名前は知らない。

  

オロンコ岩の景観。これは現在のウトロ港の方から撮ったもの。真ん中にトンネルが見えるが、これを潜ると三角岩の方に抜けることが出来る。

  

オロンコ岩(標高60m)の登場から見たゴジラ岩。左側の岩がそれである。右側の岩と一緒に右手の方から見ると亀の怪獣のようにもみえる。

  

オロンコ岩の上から見た三角岩の景観。下の方に観光バスなどの駐車場がつくられている。この右手の方に現在のウトロ港があり、そこから知床観光の船が発着している。

  

現在のウトロ漁港の反対側の方(=道の駅がある直ぐ傍)に新しい漁港とそれに関連する施設が造られている。

 さて、この二つの岩について、思いを書いて見たい。ゴジラ岩の方は見るだけのもので、その上に登ることは出来ない。自然が作り出した不思議な造形は、ゴジラなどという想像の動物(=怪獣)の姿が出来上がる前から存在していたわけであり、本来はゴジラ岩などと呼ばれるのは心外なことなのかもしれない。しかしまあ、何ともゴジラのイメージに似ているものよと感心してしまう。直ぐ隣にもう一つの巨岩があって、見る角度によっては、この二つの巨岩が重なり合って、巨大で奇怪な亀がそこに居座っている様にも見えるから、これも不思議で不気味な景観である。しかし、傍に行って見ると風雨に浸食されたボロボロの岩石があるだけで、てっぺんの方には海鳥たちの住居なのか遊び場なのか、白いペンキ色の糞などが目立つだけである。見上げる異様さは変わらないけど、これが少し離れた場所からはどう考えてもゴジラの姿に変身してしまうのは、不思議としか言いようがない。

 一方オロンコ岩の方は、これはまさに巨岩である。道の駅側の方から見ると、海に突き出てデンと構えている。高さは60m近くあり、周囲は500mくらいはあるのではないか。日本にこれ以上大きな岩があるのを自分はまだ見たことがない。オロンコという名は、その昔この辺りに住んでいたアイヌのオロッコ族というのから来ているとのことだが、それは「そこに座っている岩」という意味だと説明板に書かれていた。この岩が彼ら一族のシンボルとなっていたのではないか。この岩の上に彼らの信ずるカムイ(=神様)が鎮座していたに違いない。そのようにも思える巨大さなのである。

 しかし、今ではそのてっぺんは公園となっていて、海に向かって左側の方に作られた階段を170段ほど登ると、その小さな公園に至ることが出来る。高所恐怖症の気のある自分には、毎度冷や汗を掻いての道行きなのだが、上に登って見渡す360度の景観の味わいの快感には勝てず、必死の思いで頂上を目指すのである。とにかく下を見ないようにして足元と上の方を見ながらしっかり手すりを握っての登りなのだ。

しかし、このような切羽詰まった状態の中で、始めて登った時に出会った野草がイブキジャコウソウなのだった。階段を100段ほど上がった崖の途中に、ふといい香りが漂っているのに気が付き、良く見ると小さなピンク色の花をつけた丈の低い野草が足元というか鼻先に茂っていたのである。その時は名も知らずに、まあ、こんなところに何と可憐な花が、たくましく生きているものよと恐怖も忘れて感動したものだったが、あとで調べてみてその名を知ったのだった。今年は時期的には少し遅かったのだが、同じ場所に咲き残っているのを見つけて嬉しかった。

  

イブキジャコウソウの花。ここへ来ると、何と言ってもこの野草が一番印象的である。中央の緑の丸い葉の草はアサギリソウ。

オロンコ岩の上は野草たちの天国で、季節によって様々な花を見ることが出来る。何年か前に登った時は、エゾトリカブトの花がみごとだった。高貴な紫色のその花は、この野草の根に猛毒が仕込まれていることなど全く気付かせないで咲き誇っていた。今年は少し遅れての訪問だったので花の数は少なく、ヤマハハコやナンテンハギ、ナガバキタアザミなどが咲き残っていただけだった。それでもたった一つだけエゾトリカブトの花を見つけて感動した。花の大半は開花期を終えて眠りに入りかけている感じがした。このような岩石のてっぺんにこれほどたくさんの野草たちが生息しているとは思いもよらぬことだが、長い年月を掛けて鳥や風や小動物たちが運んだ種や実や根などが定着してこのような一大花園が形成されたのではないか。大自然とその中に住む生き物たちの関わり合いの不思議を改めて実感せずにはいられない。

  

ナンテンハギ。花が萩に似ており、葉がナンテンのそれに似ているので名付けられたのだと思う。

  

ナガバキタアザミ。アザミとあるけど、本州のあざみとは違ってトゲなどはなく、葉も違った形をしている。高山帯の野草なのだが、知床では海岸にも生育しているとか。

   

オロンコ岩のてっぺんに唯一咲き残っていてくれたエゾトリカブトの花。

今日のこのてっぺんからの景観も実に素晴らしかった。360度の広がりの半分は海であり、残りの半分が陸地といったところだろうか。海は眼下にオホーツク海が水平線まで広がっている。冬にはこの辺りにも流氷が漂い流れ着くのかもしれない。陸側の方に目を向けると、眼下に三角岩とゴジラ岩が小さく俯瞰できる。又、知床岬の方に向かう観光船の発着所も観光バスと一緒に三角岩の傍に小さく見えている。更に右手の陸側には何年か前から建設中の新しい漁港と市場らしい建物が、間もなくの完成を目指しているのがが見える。これが出来上がると、漁業基地としてのウトロの機能は益々重要性を増すに違いない。大自然の景観とそこに割り込んでいる人の営みが手に取るように眼下に見渡せるのである。

オロンコ岩のてっぺんの公園は小さくて、散策路は一周100mもないほどだが、楽しみはその百倍くらいはあるように思う。そして、30分位その楽しみを堪能した後はいよいよ下山となるのだが、これが自分にとってはまさに命がけの行動となる。下山の際には下方に横たわって待ち受ける深く蒼い色の海を見ないわけにはゆかないのである。登る時の層倍の力を込めて手すりを握り、決して前には倒れないように重心を後ろと岩側に掛けて、一歩一歩慎重に足を運ぶ。この時はイブキジャコウソウが愛らしい花を咲かせていたことも忘れ果てている。15分ほどの超緊張の時間を経て最後の一段を降りた時は、本当に生き返った気分になって、ホッと安堵するのである。

ここへやってくると、毎回同じような恐怖付きの喜びを堪能している。オロンコ岩とゴジラ岩がなかったら、ウトロに来る楽しみは殆ど無いように思う。知床観光やサケやカラフトマスの魚釣りに興味関心のある人は別として、自分のような旅人にはウトロは只の漁業基地としか映らないからである。しかし、オロンコ岩とゴジラ岩があるおかげで、道東へ来た時には此処を外すことは出来ないのである。この次も又ウトロにやって来るに違いない。

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