山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

千円定食の価値

2014-10-14 15:06:55 | 旅のエッセー

 「食べ物の恨みは恐ろしい」という。ま、恨むほどではないけど、それが有料の場合は、出てきた料理が明らかに価格に見合わないものだったりすると、その店や場所を以外といつまでも忘れないで心に留め置くものだ。食というのは人間が生きものとして生きるための根幹をなす欲求の一つであるから、満足を得られない場合はいつまでもしつこくその不満が祟り続けるのかもしれない。それに類した話である。

 旅をしている間の楽しみにはいろいろあるけど、トップクラスの一つに食べ物があると思う。自分の場合は糖尿病のため、カロリーコントロールを余儀なくされており、食べものに関しては何もかも最早諦めの境地に達しているのだが、それでも時々は正気になって美味いものを食べたいと思うことがある。いや、常に正気になりたがっているのだ。

 旅の間中、外食をするということは滅多にない。それ故に外食する時のメニューに対する期待は大きい。カロリーをコントロールするための普段の食事については、美味いも不味いも無関係に淡々と食べるということにしているけど、外食の時は違う。カロリーが少なくて、美味いものを期待するのである。概してカロリーの少ないものは美味いというコンセプトから外れるメニューの方が多いので、これはなかなか実現が難しいことが多い。

 で、今年の北海道への旅の途中、初日の泊りは東北道の国見SAだった。この日は走り疲れて食事をつくるのが億劫になり、構内にあるレストランで夕食をとることになった。一緒の相棒は、残り物で済ますというので、珍しく自分一人が中に入ることになった。しばらくメニューを見た後で、一番カロリーの少ないものを選ぶことにした。このところずっと焼き魚を食べていなかったこともあって、サンマの焼き魚定食というのをオーダーしたのだった。

 しばらく待ってウエイターが持ってきたお膳を見ると、お皿の上に痩せた小さなサンマの開きが一匹、僅かな大根おろしを添えて出て来た。その他に薄味の豚汁が小さなお椀に一杯、それからきんぴらごぼうなのか漬けものなのか、小さな皿にほんのちょっぴり入ったのが付いて来ただけだった。ご飯はカロリーコントロールでいえば3単位(=240kcal)だった。カロリー計算上は合計7単位くらいだから、まあ理想的と言っていいのかもしれない。(自分的には一日20単位~1600kcalを限度の指標としている)

 しかし、外食への期待は見事に裏切られたのだった。まるで手術で入院した病院の夕食のようなレベルで、サンマは油が抜けてカサカサだったし、豚汁もみそ汁と変わらず、香の物もあるやなしやといった感じで、美味いといえるものがどこをどう探しても見当たらないものだった。ただ、食べただけである。値段は千円也。原価は300円以下と見積もってみたが、あまり外れてはいないと思う。これほど楽しみのない食事は久しぶりのことだった。これも糖尿病になるほど長い間暴飲暴食をしてきた報いなのかと己に言い聞かせて我慢したのだけど、千円という価格に対してだけは、決して忘れないぞと記憶に沁み付いたのだった。幾ら行きずりの客だからと言って、このメニューの内容はなかろうと思ったのである。せめてサンマは1.5倍くらいの大きさでなければならない筈だ。それがないのならどんなに高くても価格を300円は下げて700円程度にすべきではないか。500円だったら納得するかもしれない。我ながら、こんなことでつべこべ言うなんて呆れるばかりなのだが、気持ちの底ではやはり燻(くすぶ)っているのである。

 それから何日か後、余市の道の駅に泊まった日に、近くにある柿崎商店という魚や野菜類などの食品を商うお店の2階にある食堂へお昼を食べに行くことになった。ここの食堂はくるま旅やバイク旅の人たちには有名な場所なのである。鮮魚類を中心とするメニューは格安で、積丹の名物のウニ丼でも二千円程度で十二分に満足できるものが提供される。例えば北海道といえばホッケが定番だけど、その干物の焼き定食がかなりの大型のものでも700円程度でたっぷりのご飯とみそ汁付きで提供されるのである。

 今日は先日のサンマ定食のことが引っ掛かっているものだから、同じ千円で食べられるメニューの中から魚類を探すことにした。その結果、少しカロリーオーバーとなってもいいからと、思いきってブリ定食というのをオーダーすることにした。ここではいつもホッケ定食が多かったのだが、千円というレベルではこれくらいしか見当たらなかったのである。

 間もなくオーダーの番号が呼ばれて、手を挙げるとブリ定食が運ばれてきた。それを見て驚いた。ブリ尽くしという感じだったのだ。ブリの刺身、煮つけ、照り焼きと、かなり大きめの切り身がそれぞれのお皿に盛られて載っていた。勿論たっぷりのご飯とみそ汁も付いてである。これではかなりのカロリーオーバーとなってしまうけど、偶にしか食べない外食の千円という価格では、心配よりも嬉しさの方が遥かに勝るのは言うまでもない。覚悟を決めて久しぶりのブリの味を三方向から、満腹になるまで味わったのだった。

 この格差は一体どこから来るのだろうか。国見のSAの調理人や経営者を非難し、柿崎食堂を褒めあげるつもりはないけど、どちらかに何かが欠け、どちらかに何かが備わっているに違いない。その何かというのは、多分客に対する思いの中身なのではないかという気がする。単に安いとか高いとかいうことだけではなく、客に思いが届くような商売をしているかどうかが大事なのではないか。国見の方は思いそのものが枯渇しているように思えるのである。思いを受け止めることが出来れば、客はそれに応えてもう一度足を向ける気になるものであろう。何の思いも伝わって来なければ、もう二度とその店にはゆかないと決めるのは当然のことに違いない。自分はそのように思っている。

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