山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

ビロードモウズイカの話

2013-09-05 03:01:00 | 宵宵妄話

  我家の門脇の街路樹の下に居座った不思議な植物のことについてお話しすることにしましょう。

 今は真に暑い、いや、異常に暑過ぎる夏がようやく終わりかけている時期ですが、その植物に気づいたのは、昨年の冬の12月頃でした。我家の道路に面した側道には、街路樹としてハナミズキが植えられていますが、我家付近には2本あって、これらを自分の担当と心得、一応普段から面倒を見るように心がけています。毎年根元にグラジオラスやスミレなどの花が咲くようにと球根を植えたり、雑草を引き抜くなどの管理をしています。グラジオラスは街路樹の1本には真っ赤な花を、もう1本には純白の花の咲くものを植えて、そのコントラストを楽しんだりしています。道行く人にも少しは愛でて頂けるのではないかと思っています。

 昨年の秋の終わり頃、その街路樹の1本の根元に、ロゼット状に葉を揃えて冬を迎え、送ろうとしている名も知らぬ草を見つけました。ロゼット状というのは、少し難しく言えば、根生葉(こんせいよう)の植物の形状を言い、短い茎に葉が密集して円形に付いてるものです。子供服などに付ける薔薇の花型の飾りリボンのこともロゼットというようですが、同じ形状を言っていると思います。野草の代表的なものとしては、タンポポやノゲシ、ハルジオン、ヒメジオン、ホトケノザなどがあります。

 その名も知らぬ草は、それらのどの種類でもなさそうで、多く見られるヒメジオンよりもかなり大型の葉っぱでした。何だか引き抜くのが可哀想な気がして、そのまま残しておこうと思いました。ハナミズキの木の下には、冬は他には草は生えておらず、何だか目立つ存在となりました。厳冬の時期にも、少し葉っぱを赤く染めて、健気に寒さと戦っている姿にちょっぴり感動したりしながら、ようやく春を迎えたのでした。

 一体何という名の草なのだろうかと調べようとしても、その葉っぱだけの姿からは図鑑を見ても、見当がつきません。どんな植物でもそうなのですが、それが若い時期であればあるほど、一目見てその名を言い当てるのは困難となります。その植物が生長期を経て花を咲かせるのを見て、それがどのような植物なのかを知ることが出来るのです。ですから、その葉っぱだけの草の名は依然として不明なのでした。4月になってもその草の姿は変わらず、ただ葉っぱだけが一段と大きさを増しただけでした。依然謎の草というままでした。

     

今年の4月20日時点での謎の植物の姿。この5分の一にも満たなかった小さな葉っぱが、これで直径が30cm以上の大きさになっていた。

 5月になって、葉っぱは益々大きくなるのですが、花を咲かせるような雰囲気はなく、こりゃあ一体どうなるのかなと、疑問は増すばかりでした。5月の下旬から6月の上旬過ぎまで、20日余りの旅に出て、家を留守にしたのですが、帰宅してみると、なんとその草の芯の部分がにゅっと伸びて、上の方に黄色い花を咲かせているではありませんか。想像もしなかった姿と花の様子でした。草丈は1mを超えており、他の雑草たちを圧倒していました。

     

6月13日時点での謎の植物の全景。もはや葉はロゼット状ではなく、茎が大きく伸びて、てっぺんの方に幾つかの花を咲かせていた。

     

ビロードモウズイカの花。花穂にびっしりと付いた蕾が一つづつ開花して行く。中には開花しないままに終わるのもあるらしい。これは初期の花の様子。

 しかし、この野草の姿はどこかで見た記憶があるのです。タバコの葉に似た葉を付けており、葉の表面には細い毛のようなものが密集して生えていて、触るとべとつく感じがします。しかし、花の方はタバコとは全く似ておらず、淡く澄んだ黄色の花でした。棒状の花穂には花の蕾が密集しており、それらが下の方から幾つかずつ順番に咲き上がって行くという開花スタイルなのです。これをどこで見たのか、懸命に思い起こしました。ようやく思い出しました。そうそう、毎年の北海道の旅で、初めて見たのは、知床半島の北側の付け根の位置にある、ウトロの道の駅に泊った時でした。海の近くにオロンコ岩という巨大な石の塊があるのですが、それに登ろうと向かった時でした。途中の港の荒れ地のそこいら辺に、これと同じようなのが何株も生えていて、黄色い花を咲かせていたのでした。大型の植物なので、目立つ存在でした。その時も一体なんという草なのだろうかと、疑問に思ったのですが、その時は、北海道エリアに生える草の一つなのだろうと思うだけでした。旅から戻るとその花のことは、すっかり忘れ果てていたのでした。

 さて、こうなれば図鑑を見れば載っている筈だと、調べることにしました。草の名前を調べるというのは結構面倒なことで、その特徴から分類名を見当つけて探せば良いのかもしれませんが、それがなかなか分らず、結局は花を咲かせる季節に合わせて、図鑑を片っ端から見てゆくしかありません。咲き出したのが春の終わり頃なので、夏の部を見て探したのですが、見当たりませんでした。では秋の部なのかと探しましたら、ありました!我家のものよりも少し小さな写真でしたが、荒れ地の中に咲いている花の姿の写真が載っていました。その名は何ともややこしくて覚えにくいのですが、「ビロードモウズイカ」というものでした。解説を読むと、葉に触るとビロードのような質感があり、花の中心に毛が密生しているというので、この名があるということでした。なるほど、そう言われてみればその通りだなと思いました。漢字で書くと、「天鵞絨毛蕊花」ということで、恐ろしいほどに難しい字です。でも、「天鵞絨」をビロードと読むのは昭和の初めの人なら常識かも知れず、「毛蕊花」の方は、読みは難しくても、花の特徴をそのまま表しているのが解って、何ともまあ面白く、素直な命名だなと思いました。片仮名では分りにくい名前も、漢字を見ると納得という感じで、今はすっかりこの草の名を覚えてしまいました。

 この草は、地中海沿岸原産の帰化植物ということです。道理で和風とは思えぬ花だなと思いました。この頃は植物の世界でもグローバル化とやらが進展しているようで、鎖国の時代からは全く様相が変わりつつあるようです。自分が気がついているだけでも帰化植物の繁茂は幾つもあって、その内に耕作放棄地などにはサボテン等が居座るのではないかと思うほどです。ハルジオンやヒメジオンは帰化植物ですし、タンポポだって日本古来のものよりも帰化した西洋タンポポの方が圧倒的に多いのは多くの人の知るところです。最近気になっているのは、ブタナというタンポポに似た花を咲かせる植物です。この花もヨーロッパ原産とのことですが、北海道を旅すると牧場の脇辺りを初め至る所にはびこって花を咲かせています。最近では関東の地でも多く見かけるようになり、毎日の歩きのコースの一つである小貝川(利根川支流)の堤防にも数多く見られるようになりました。このままでは、やがて日本の空き地はヒメジオンやブタナ等の花園で埋め尽くされてしまうのかもしれません。複雑な気持ちになります。これらの花が増える分だけ、一方で消え去って行く草もあり、彼らの生存競争も又グローバル化しているのだなと思わずにはいられません。

 ところで、昨年の冬に我家の近くの街路樹の下に突然現れたビロードモウズイカは、一体いつ、どこからやって来たのでしょうか。この草の存在に気づいてから、毎日の散歩の中で気を付けて見ていると、結構あちこちに点在してその大きな葉を見せているのが分りました。中には、自分と同じようにこの花を珍しがってなのか、庭の中で鉢植えにして育てている人などもおられるのに驚かされたりしました。先日霧ケ峰高原に行った時も、上田市の郊外の道路脇にも何本ものビロードモウズイカが埃まみれの花を咲かせていました。結局、自分が気付かなかっただけということなのでありましょう。

 我家のビロードモウズイカは、その後益々丈を伸ばし、2m近くになって、ようやく花穂を伸ばすのを止めたようです。現在はこの猛暑で葉は半分以上枯れて来ており、花はその後脇から出て来た何本かの花穂に花を咲かせた後、黒っぽい花穂の残骸だけが不気味に立っており、ようやく今年の生命を終えようとしているかのようです。この花が多年草なのかそれとも1年草なのか判りませんが、ここ1年近く付き合って来て、さて、この後はどうするか、今迷っているところです。

     

8月22日時点でのビロードモウズイカの様子。上部の花穂はすっかり花を咲かせ終わって、黒い棒状になっている。その下部から新たに何本かの花穂が伸びて、そこに名残の花を咲かせている。

     

8月22日時点、老衰期に入ったと思われるビロードモウズイカの様子。上記写真の花穂の下部辺りを拡大したもの。花の優しさと併せて野草の逞しさが伝わってくる。

 野草というのは、野に在って初めて野草の真価が発揮されるものなのだと考えると、これから先毎年街路樹の下に居て貰うよりも、解放されて別の地で子孫を増やした方が良いのではないかとも思ったりしています。野の草たちは常に同じ場所に住みつくよりも結構移動するのが好きで、ここかと思えば、来年はあちらの方にと住む場所を替えながら子孫を増やす戦略者が多いようです。このビロードモウズイカには、この先はやっぱり己が気に入った他の場所に移って貰うのが良いのかなと思いながら、しばらく様子を見ることにしました。

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