東京多摩借地借家人組合

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住まいは再建したけど…

2019年03月12日 | 地震と借地借家問題
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190311/k10011843791000.html

震災で家を失った人などが暮らす災害公営住宅。仮設住宅などで暮らしていた人にとっては、長く暮らす
ことを前提にした、待望のわが家です。震災から8年がたち、その完成率は今年度で100%に迫る見通し
となりました。
しかし、すでに移り住んだ人の中には、不眠など健康上の問題を訴える人が相次いでいることが最新の調
査で分かってきました。
(社会部・仙台放送局取材班)

思わぬ症状が…

岩手県宮古市にある災害公営住宅です。震災で自宅をなくした40世帯が入居しています。ここに入居した
あと、体調に異変が起きた女性がいるときき、訪ねました。
2年前に入居した堀子朝子さんは、津波で夫を亡くし、自宅も全壊しました。震災のあと、2か所の避難
所、仮設住宅を経てここにたどりつきました。引っ越した直後から眠れなくなったといいます。
堀子さんは「眠れないのはここに来てから毎日です。仮設住宅に住んでいた時はこんなことはなかった」
と話します。

その正体は「リロケーションダメージ」

この現象をどうみたらいいのか。7000人を超える被災者の健康調査を行ってきた、東北大学の辻一郎教授
は、災害公営住宅の住民に「リロケーションダメージ(移転被害)」が起きていると指摘します。
「リロケーションダメージ」は、もともと福祉の分野で使われている言葉で、高齢者が介護施設などに移
り、孤立することで、認知症や健康状態の悪化につながることをいいます。辻教授の最新の調査で、東日
本大震災の被災者に、この現象が起きていることが明らかになったのです。
その正体は「リロケーションダメージ」
辻教授が、災害公営住宅の住民を対象に行った調査です。転居の回数が増えるにつれ、不眠などの睡眠障
害の疑いがある人の割合が増加しています。4回以上転居した人では、実に4割近くにのぼっていること
がわかります。
元の住まいから避難所、それに災害公営住宅へと転居を重ねてきた被災者に起きている「リロケーション
ダメージ」。
辻教授は「引っ越しの回数が多い人では不眠・抑うつが多くなっていて、今回の震災でもリロケーション
ダメージが起きていることが明らかになったといえる。ほうっておくと、もっともっと重度のうつ状態、
あるいは本当のうつ病になっていく可能性がある」と警告します。

背景にあるのは「孤立」

なぜ転居を重ねると、リロケーションダメージが起きるのか。
辻教授は、地震や津波が原因で突然、住まいを奪われた被災者が、転居のたびに人間関係を断たれ、スト
レスを抱えていることが背景にあると分析します。
堀子さんの場合、5年間暮らした仮設住宅では、古くからの友人がいたこともあり楽しく過ごしていまし
た。しかし災害公営住宅に来るとき、友人と離ればなれになってしまいました。現在の住宅では、新たな
人間関係を築くきっかけも、多くありません。
堀子さんは、「普通ではいられないぐらい、ひとりぼっちだという感じがする。集合住宅だから、もっと
コミュニケーションもあって、皆さんとしょっちゅう会って楽しい生活ができるのではないかと思ってい
た。しかたがない、あきらめようかとも思いますが…」と話します。

つながりを生み出すカギは集会所!

住民どうしのつながりを生み出そうと、新たな試みを始めた災害公営住宅があります。宮城県塩釜市にあ
る清水沢東住宅です。
市の委託を受けたNPOの副代表で東北工業大学の新井信幸准教授が、この住宅のコミュニティーづくり
を支援しています。
新井准教授は、仮設住宅とは違い、災害公営住宅はプライバシーが確保されているため、逆に隣近所の顔
が見えにくくなっていると指摘。「集会所が毎日のように使われていくことで、あそこに行けば誰かに会
える、気晴らしになる、ふらっと寄れる、となってくる。みんなの“居場所”になることで、孤立を防ぐ
ことができる」と話し、災害公営住宅にある集会所を交流の拠点として活用することが住民どうしのつな
がりを生み出すカギだといいます。

住民だけでは限界 外部の力を利用すべし!

この住宅でも、当初、集会所はあまり使われていませんでした。しかし、新井准教授の助言を受けて、ま
ず住民の有志が体操やカラオケなどのサークル活動を始めました。加えて、ボランティアやNPOなど外
部を積極的に巻き込むことで、カラオケ大会や芋煮会、映画の鑑賞会など、多種多様なイベントを開催で
きるようになりました。その回数は、今では月平均20回を超えています。
新井准教授は、住民だけで集会所やイベントを運営すると、趣味や相性によって集まる人が固定化されて
しまうことから、災害公営住宅で孤立を防ぎ、住民の生活を充実させるには、行政や外部の専門家がサ
ポートしながら、交流を促す仕組み作りが必要だといいます。

住まいだけでは復興は果たせない…

見た目は真新しい災害公営住宅。取材を担当した私たちも、初めて訪れたときは、「頑丈で安心して住め
そうな家」という印象を受けました。しかし住民への取材を進めるうちに、多くの人が「以前の住まいに
戻りたい」と話すことが気になりました。
被災し、転居を繰り返した人たちは、住宅という建物だけを求めているのではなく、震災前と同じ、人と
のつながりのある暮らしを取り戻したいと考えているのです。「リロケーションダメージ」は、それがで
きないストレスが健康への影響として表面化した現象だと専門家はいいます。
しかも、災害は突然やってくるため、より深刻です。災害公営住宅の完成率が100%に迫る中、明らかに
なったリロケーションダメージ。被災地はいま、人と人とのつながりを再建するという難しい課題に直面
しています。


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