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建物の老朽化により建て替えの必要性があり、相応の立退料を支払うことを前提にした契約の解除、明渡請求を認めなかった事例

2021年11月01日 | 最高裁と判例集
東京地方裁判所2019年12月12日判決を紹介します。

事案としては,賃貸人は,建物(本件建物)が,木造建物の貸与年数(22年)を優に超過し,旧耐震基準の建物であるため,倒壊の危険性があるところ,耐震補強工事には多額の費用がかかるので,建替えの必要性があり,相応の立退料を支払うことを前提に,契約の解約予告(本件解約予告)をしました。これに対し,賃借人は,一級建築士(A)の意見書を提出し,早急に耐震補強工事や建替工事を要する状況になく、比較的平易かつ安価の補強が可能であると反論しました。
判決では,「我が国の木造建物には旧耐震基準の建物が多数あると考えられ、その全てが現在直ちに建て替える必要があるといえるものではない。そして、A意見書によれば、本件建物は、①昭和34年の新築当時、建築確認及び完了検査を受けた建物で、②その基礎は、現在でも一般に採用されている鉄筋コンクリート造の布基礎で、全体として矩形のそれほど複雑でない平面をした瓦葺き平家の建物である上、③全体的に壁量が多いことから平成12年改正後の壁量に関する基準に準じている可能性が高く、④仮に適合しない場合にも、同基準に示された補強は比較的平易に行い得、⑤土台等に白蟻による被害も見当たらず、東日本大震災を含む地震等による損傷の跡は殆ど見当たらないとされ、これらのことから、現況のままで、ある程度の規模の地震には対応することができ、早急な耐震補強工事や建替工事が必要とはいえないとされている。」などと述べ,「立退料による正当事由の補完を検討するまでもなく、本件解約告知に正当事由があると認めるのは困難である。」として,賃貸人の請求を棄却しました。

建物の老朽化を理由にした更新拒絶(解約予告)の相談は多く,築後50年前後の木造建物の場合,賃貸人は,旧耐震基準で倒壊の可能性が高いと主張し,裁判所も,特に東日本大震災以降,その主張に好意的な印象を受けます。しかし,この判決は,建物の構造・現状によっては,賃借人側でも,一級建築士などが作成した意見書を提出するなどして,専門的・具体的な反論をすることにより,明渡請求を棄却した事例として,参考になります。

(弁護士、種田和敏)

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