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飲食店からの悪臭を放置した貸主に対する損害賠償請求

2008年08月29日 | 最高裁と判例集
東京地裁判決 平成15年1月27日
(判例タイムズ 1129号 153頁)

《要旨》
 飲食店からの悪臭について、放置した賃貸人の責任を認め、賃貸人に対する損害賠償請求が認められた事例


(1) 事案の概要
 Xは、平成10年12月にY所有ビルの一室を賃借し、婦人服販売店を経営していたが、地下1階に、小料理屋Aが営業を開始すると、焼き魚等の臭いが発生し、売上げが減少するなど、婦人服販売に支障が生じるようになった。Xは、媒介業者やYに対して、苦情を申し入れ、悪臭の問題が解決するまで賃料を支払わないとYに通告した。一方、Yは、Xに対して、本件貸室の明渡し及び未払賃料等の支払を求めて訴えを提起し、平成14年7月、本件契約は合意解約された。
 Xは、賃借目的にかなう状態に維持すべき義務を負担していたにもかかわらず、悪臭の防止等の義務を怠ったとして、Yに対し、売上げ減少等の損害賠償を求めて提訴した。これに対しYは、債務不履行を争うとともに、予備的にXの未払賃料等との相殺を主張した。

(2) 判決の要旨
 ①賃貸借契約における賃貸人には、あらゆる臭いの発生を防止すべき義務があるというものではなく、賃貸借の目的から見て、目的物をその目的に従って使用収益する上で、社会通念上、受忍限度を逸脱する程度の悪臭が発生する場合に、これを放置し若しくは防止策を怠る場合に、初めて、賃貸人に債務不履行責任が生ずるというべきである。
 ②本件については、Xの30数名の顧客が飲食店からの魚の臭いについて、かなりの不快感を示しており、悪臭によって被害を被った事実が認められ、他方、Y側において、悪臭に関する抜本的な解決策をとらなかったことが認められる。したがって、Yは、賃借人に目的物を使用収益せしめる義務を怠ったのであるから、Xに対して債務不履行責任を負うというべきである。
 ③損害額については、客観的証拠はなく、Xの主張する損害全額を認めることは到底できないが、店舗の環境の悪化によって、顧客の購買意欲の減退などの被害を受けたことは認められ、悪臭の発生と相当因果関係にある損害は、80万円と認めるのが相当である。他方、Yが、Xに対して有する未払賃料等に係る債権は、112万円余であるので、これと、Yが、Xに対して負う損害額80万円余を相殺すると、XのYに対する本件請求債権は存在しないので、Xの請求は、理由がないから棄却する。


(3) まとめ
 本判決は、賃貸借契約における賃貸人の義務は、賃借人に目的物を引き渡すだけではなく、目的物が使用収益に適した状態にあることについても責任を負うものであり、目的物が使用収益に適した状態でなくなったのであれば、その直接的原因が他の賃借人に因るものだとしても、損害賠償責任を免れないとしている。



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