東京多摩借地借家人組合

アパート・賃貸マンション、店舗、事務所等の賃貸のトラブルのご相談を受付けます。

敷引特約があっても災害により家屋が滅失したときは特約は適用できない

2008年08月07日 | 最高裁と判例集
最高裁判決 平成10年9月3日
(判例時報 1653号 96頁)
(判例タイムズ 985号 131頁)

《要旨》
 敷金につき、いわゆる敷引特約がされた場合であっても、災害により家屋が滅失して賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り右特約を適用することはできないとした事例


(1) 事案の概要
 Yは昭和51年8月、Xに対し、賃料月額5万5,000円、期間2年の約定で、木造二階の一戸建てである本件建物を賃貸した。その後、右賃貸借契約は、2年毎に更新され、本件建物が阪神・淡路大震災により倒壊するまで18年余り継続された。この間、賃料も8回にわたり改定され、阪神・淡路大震災当時は月額8万8,000円となっていた。
 本件賃貸借契約に際しては、賃借人のXから賃貸人のYに対し、「賃借保証金(敷金)」名で100万円が差し入れられており、賃貸借契約書には、「本件建物明渡しに際しては、敷金の2割引きした金額を返還する」旨のいわゆる敷引特約が定められていた。
 本件建物は、平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災によって倒壊し、Xは本件建物から退去した。Xは、平成8年5月、Yに対し、敷金100万円の返還を求めて本件訴訟を提起した(なお、Xに賃料等の未払はない)。
 第一審(神戸地裁尼崎支部平8.9.27)は、Xの請求を全面的に認容し、控訴審(大阪高裁平9.5.7)では、逆に、一審の判決を取り消して、Xの本訴請求を棄却した。

(2) 判決の要旨
 ①居住用の家屋の賃貸借における敷金につき、賃貸借契約終了時にそのうちの一定金額又は一定割合の金員(以下「敷引金」という。)を返還しない旨のいわゆる敷引特約がされた場合において、災害により賃借家屋が消滅し、賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、敷引特約を適用することはできず、賃貸人は賃借人に対し敷引金を返還すべきものと解するのは相当である。
 ②敷引金は、いわゆる礼金として合意された場合のように当事者間に明確な合意が存する場合は別として、一般に、賃貸借契約が火災、震災、風水害その他の災害により当事者が予期していない時期に終了した場合についてまで返還しないとの合意が成立していたと解することはできないから、他に敷引金の不返還を相当とするに足りる特段の事情がない限り、これを賃借人に返還すべきものである。
 ③これを本件について見ると、本件賃貸借契約においては、阪神・淡路大震災のような災害によって契約が終了した場合であっても敷引金を返還しないことが明確に合意されているということはできず、その他敷引金の不返還を相当とするに足りる特段の事情も認められない。よってXの請求には理由がある。


(3) まとめ
 本判決により、災害により賃借家屋が滅失し、賃貸借契約が終了した場合には、原則として「敷引き」という名目で敷金から金員を控除することはできないことになり、この方向で迅速な紛争解決が図られることが期待される。




借地借家の賃貸トラブルのご相談は

東京多摩借地借家人組合まで

一人で悩まず  042(526)1094 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする