花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

国民国家は役目を終えたか?

2008-04-28 22:11:30 | Weblog
 今日の朝日新聞朝刊に、ドイツの社会学者、ウルリッヒ・ベック氏のインタビュー記事が掲載されていました。グローバル化した時代におい て、私たちがリスクにさらされているありさまを論じた「危険社会」(法政大学出版局刊)の著書があるベック氏ですが、氏はこのインタビューでグローバル化された世界と民主主義について述べています。グローバル化した世の中では人々にとって大きな問題は、国境を越えて拡がっています。例えば、地球温暖化などの環境問題はその最たるものでしょう。国境を越えた問題に対して、いまだ政治が国ごとの対応を迫 られている状況に、ベック氏はこう言っています。「そうした問題は各国レベルで解決しようとしても無理。政党にも政治家にもグローバルな取り組みが求められる。より世界市民的な(コスモポリタン)な考え方が必要だ」 また、国家単位の民主主義には限界があることも指摘しています。「今のイラク市民がいい例だが、グローバル化した世界では、ある民主主義国が民主的に決めたことが、決定に加わっていない別の国の人たちにも影響を及ぼす」 ベック氏はさらに続けて、「従来の民主主義は国民国家という枠の中で成り立ってきた。その決定の影響が及ぶのも国民だけというモデルだ。だがそれは相互依存状態にある今の世界に合わない。民主主義をコスモポリタンなレベルで考えなければならない」と、コスモポリタンな民主主義が国民国家の民主主義に取って代わることに期待を寄せています。
 そこで、ベック氏の発言はコスモポリタンな民主主義に及びます。「世界を全部同じにして権力の中心を決めようとはせず、世界は同じで もあるし異なってもいるということに留意し、どの民族、宗教も固有の価値、尊厳を持つことをお互いに認め合うことが重要」、そして、「欧州では政教分離が進み、宗教は国家から離れることで自分たちの道、精神世界を発見し、異なった宗派同士が互いに認め合うようになった。同 じように国民国家(ネーション・ステート)の諸民族(ネーション)も国家(ステート)と分離してお互いに認め合うようになるべきだろう」
 ベック氏の言う、「どの民族、宗教も固有の価値、尊厳を持つことをお互いに認め合うことが重要」とは、「民族、宗教」を「個人」に置き換えれば民主主義の根本理念にほかならず、結局は「基本に帰りましょう」と私には読み取れました。私の感想をもうひとつ付け加えるならば、グ ローバル化を推し進めているのはとどのつまり、人類の歴史と同じくらい古い人間の営利心であり、その営利心がIT技術に代表される20世紀終盤に花開いた先端的なテクノロジーと手を握ったことで、圧倒的な力で地上を席捲するに至ったのではないでしょうか。もしそうであるならば、民主主義の基本の「き」と同じくグローバル化時代にも必要なのは、営利心の振る舞いをフェアなものとするための制度的枠組ではないかと思います。但し、いきなりグローバルな規制の網を掛けることが無理な以上、制度的枠組を作って運用していくには、まだまだ国民国家の中で行政的、法的な手続きを積み重ねていかなくてはなりません。国民国家の限界を嘆くにはまだ早すぎるような気がします。

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