花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

浄瑠璃寺

2014-02-02 10:15:21 | Weblog
 秋篠寺へ行った同じ日、バスで京都府木津川市当尾(とうの)地区にある浄瑠璃寺へ行きました。秋篠寺が比較的町中(近くに競輪場も)にあったのとは対照的に浄瑠璃寺は里山的趣の中にありました。和辻哲郎は「古寺巡礼」の中で当尾の里のことを、「村がある、小山がある。こんな山の上にあるだろうとは思いがけない、いかにも長閑な農村の光景である」と言っていますが、確かにバスでやって来る途中の風景、バスを降りてからの参道、いずれも心和ませる長閑な印象を与えるものでした。
 浄瑠璃寺には九体の阿弥陀如来像を収めた本堂、池をはさんだ反対側で本堂をやや見下ろす一段高いところにある三重塔には薬師如来が安置されています。西に位置する本堂の阿弥陀如来は西方極楽浄土を表し、薬師如来は東方浄瑠璃浄土の意味が込められています。本堂=阿弥陀如来、中央の池、三重塔=薬師如来、この3つの取り合わせの妙が彼岸的な安らぎ感を生み出しているのが浄瑠璃寺の魅力なのですが、あいにく池は工事中で水をだいぶ抜かれており、そこに土嚢が積み上げられたさまは、期待していた浄土を模した庭園のたたずまいを感じさせるものではありませんでした。けれどもそれはそれで仕方がないので、堀辰雄の「浄瑠璃寺の春」を思い出しながらイメージで補うことにしました。堀辰雄は馬酔木の見事さを書き留めています。寺を案内してくれた娘さんが「あこの菖蒲の咲くころもよろしいおまっせ。それからまた、夏になるとなあ、あこの睡蓮が、それはそれは綺麗な花をさかせまっせ」と説明しているくだりもあり、花に彩られた季節に訪れたらどんなに風情があったことでしょう。
 浄瑠璃寺は吉祥天女像で知られたお寺でもあります。写真家・土門拳が、「眼目広長にして顔貌静寂。小さな唇は見るものに忘れがたい魅力を与える。仏像のうちでは、おそらく日本一の美人であろう」と絶賛した吉祥天女像のご開帳は1月15日で終わっていました。扉を閉ざした厨子を眺めていると、ふと「本当に中に入っているのかい」と声を掛けたくなりました。いろいろと未練を残した浄瑠璃寺へ再訪の機会があることを願いつつ、長閑な参道を引き返しました。本当はここから小一時間ほど歩いたところにある岩船寺の三重塔も観たかったのですが、6時半から大阪で飲み会があるのでそれも果たせませんでした。