『二極化する若者と自立支援』より
もっと深刻な層が「置き去り層」だ。「学校、企業、仲間、国の制度(生活保護、社会保険など)、家族も含め、『社会とのつながり』が希薄な層」(Social Exclusion)だ。例えば、大学や高校の中退者、無業、高卒、フリーター、失業者、ワーキングプアなどの若者の一部だ。
文部科学省の調査によると、高校の中退者は、約6万6000人に上る。大学の中退者は、NPO法人「NEWVERY」(東京)の調査では、大学生の8人にI人に上る。不登校児童は、文部科学省の調査によると、小中学校で約12万6000人、高校で約5万3000人に上る。
「置き去り層」を象徴するケースがある。20代前半のAさんの例だ。Aさんは、一時路上生活者だった。様々なくつながり〉から置き去りにされた、象徴的な例だと実感させられた。Aさんは高校2年の時、突然、父親から、自分が里親であることを告げられた。Aさんの母親は、誕生後失踪。父親はAさんが産まれる前から行方不明だった。高校まで特に不自由もなく育ててくれた、「親」からの突然の「縁切り宣言」だった。「父親」はすでに児童養護施設への入所手続きを終えていた。I週間後、「何か何だかわからないまま」、施設に入所させられた。施設への入所前後から高校にも行かなくなった。そして間もなく高校を中退した。
だが、中退後、今度は、児童養護施設から退所を命じられた。児童養護施設は原則18歳未満までが入所対象だからだ。「そういう決まりだから」。滞在の延長を求めるAさんに、施設の職員は、つれなくこう告げた。
退所後、アルバイトで貯めたお金を使って安い家賃のアパートで一人暮らしをはじめた。生活費はアルバイトで稼いだ。だが、今度は、「仲間」に裏切られた。遊び仲間の男性から、執拗にお金をせびられるようなった。夜中に雨戸を開けて家に入ろうとすることもあった。アルバイト先にも来るようになった。仕事も行けなくなった。家で待ち伏せされるのが怖くて、家に帰れなくなった。テレビも、服も置いたまま、家を出た。店長は相談に乗ってくれなかった。仕事も辞めた。「恐喝を受けている」。警察に相談したが、相手にしてくれなかった。
「家族」「里親」「福祉」「仲間」「仕事」「警察」……。Aさんは、こうした〈つながり〉から排除された。「行くところがない」。所持金もほぼゼロ。路上生活者になった。寝る場所は、公園、コンビニエンスストア、公民館の駐車場……。ゝ不ットカフェは、リクライニングシートで仮眠を取ることができ、シャワーの付いた施設もある。何より、1500円程度で一晩明かせる。ただ、そのネットカフェさえ、「高くて入れなかった」。
水とトイレは公園の施設を使った。食べるのは、日に一食。コンビニエンスストアの倉庫には「廃棄用」の食べ物がある。コンビニでアルバイトをした経験があるから知っていた。時折、その食べ物を「拝借」した。万引きを繰り返したこともあった。「このまま犯罪者になっていくのかなあ」。そんな思いが頭をもたげたことも珍しくなかった。
ハローワークに足を運んだ。ただ、身寄りも、家もない自分に紹介される仕事は、建設関係の住み込みの仕事だけ。住まいは6畳I問の3人の共同部屋。自分以外は、60代と40代の男性が同居人だった。10代の若い自分は「若造」。仕事中はもちろん、仕事が終わっても、雑用をこなすよう命じられた。「パンツを洗え」。こんな雑用までこなした。嫌になった。2ヵ月単位の仕事を、3日で辞めたこともあった。「もう死ぬしかないのかな」。そんな考えも浮かんだ。
Aさんは最近、知人の紹介で生活保護を受給し始めた。ただ、この数年で受けた傷は重く、精神疾患を抱えた。彼は目を伏せながら、言葉を振り絞るようにこう話す。「先が見えない」。
Aさんのようなケースは決して例外ではない。
30代のBさんは10年近く、住所不定のフリーター生活を続けている。泊まり先は、ネットカフェや公園などだ。Bさんは高校卒業後、大学に入学した。だが、「大学に行く意義が見いだせず」、間もなく大学を中退。親から「出て行け」と言われ、家を出た。以来約10年以上経過した。ネットカフェは、会社員や若者がくつろげる場として都市部を中心に広がっている。リクライニングシートがひとつ備え付けられた「個室スペース」があり、そのスペースの机の上にはパソコンもあり、テレビも見られる。マンガもあることから、「マンガ喫茶」と言われることもある。カップラーメンやパンなどを自販機で購入できる。なかには、シャワーの付いたところやマッサージ器、ダーツゲームを楽しめる場所もある。
カフェで一晩を明かす時、Bさんは、個室の机の下に、下着などの入ったバッグを置き、シートを後ろに下げて眠る。机の上には携帯電話。携帯には随時、派遣会社から翌日の仕事の連絡がメールで入る。文字通り生活の「命綱」だ。引っ越し、工事現場、イペント設営など、紹介される仕事の多くは、「日雇い」だ。お金がない時は、「路上」で過ごす。例えば、昼は、「健康ランド」の昼割引で風呂に入り、図書館で寝る。食事はデパート地下の試食でしのぐ。「寝床」については、夏場は公園などだ。厄介なのは、冬場だ。公園で寝ると凍死する可能性もあるからだ。だから、冬場は、あてもなくひたすら歩き続ける。そして、1時間ごとにコンビニエンスストアで暖をとる。親しい友人もいない。なぜなら、職場を転々とするためだ。家族とも音信不通の状態だ。ネットカフェで使うインターネットは、「外」の世界とつながるための貴重なチャンネルとなっている。「死んでもだれもわからないでしょうね」。そうつぶやく。
住む場所がなく、ネットカフェなどに寝泊まりする若者について、厚生労働省は2007年8月、実態調査を発表している「厚生労働省9aoo7」。この調査は07年6月から7月にかけて実施。全国のネットカフェやマンガ喫茶計約3000店を対象とした聞き取り調査と、東京23区と大阪市で利用者計362人に対して行った面接調査の結果を踏まえ、人数などを推計したものだ。
調査結果によると、ネットカフェの利用者は、全国で一晩約6万900人。その大半は、仕事や遊びで遅くなった「一時利用者」だったが、帰る家がないため日常的に泊まる「ネットカフェ難民」が、推計約5400人いることがわかった。その内訳を就業形態別に見ると、アルバイトや1日単位の仕事をする「旦雇い派遣」など、非正規労働者が約2700人と半分を占める。失業者(約1300人)も含めると、大半が不安定な就労状態にある。年齢別では、20歳代が27%、30歳代が19%と半数近くが若年層。50歳代も23%で、中高年でも広がっている。平均手取り月収は、東京で10万7000円、大阪で8万3000円。ネットカフェ以外では、路上、ファストフード店、サウナでも寝泊まりしている。
「置き去り層」も、不安定な就労になりがちだ。労働政策研究・研修機構が調査した「大都市の若者の就業行動と移行課程」(2006年)によると、高等教育を中退して正社員になった人はわずか14・7%、アルバイトかパートが59」8%と最多だ。高校中退の場合も同様で、正社員になった人は12・8%、アルバイト・パートが50・6%と最も多い。
もっと深刻な層が「置き去り層」だ。「学校、企業、仲間、国の制度(生活保護、社会保険など)、家族も含め、『社会とのつながり』が希薄な層」(Social Exclusion)だ。例えば、大学や高校の中退者、無業、高卒、フリーター、失業者、ワーキングプアなどの若者の一部だ。
文部科学省の調査によると、高校の中退者は、約6万6000人に上る。大学の中退者は、NPO法人「NEWVERY」(東京)の調査では、大学生の8人にI人に上る。不登校児童は、文部科学省の調査によると、小中学校で約12万6000人、高校で約5万3000人に上る。
「置き去り層」を象徴するケースがある。20代前半のAさんの例だ。Aさんは、一時路上生活者だった。様々なくつながり〉から置き去りにされた、象徴的な例だと実感させられた。Aさんは高校2年の時、突然、父親から、自分が里親であることを告げられた。Aさんの母親は、誕生後失踪。父親はAさんが産まれる前から行方不明だった。高校まで特に不自由もなく育ててくれた、「親」からの突然の「縁切り宣言」だった。「父親」はすでに児童養護施設への入所手続きを終えていた。I週間後、「何か何だかわからないまま」、施設に入所させられた。施設への入所前後から高校にも行かなくなった。そして間もなく高校を中退した。
だが、中退後、今度は、児童養護施設から退所を命じられた。児童養護施設は原則18歳未満までが入所対象だからだ。「そういう決まりだから」。滞在の延長を求めるAさんに、施設の職員は、つれなくこう告げた。
退所後、アルバイトで貯めたお金を使って安い家賃のアパートで一人暮らしをはじめた。生活費はアルバイトで稼いだ。だが、今度は、「仲間」に裏切られた。遊び仲間の男性から、執拗にお金をせびられるようなった。夜中に雨戸を開けて家に入ろうとすることもあった。アルバイト先にも来るようになった。仕事も行けなくなった。家で待ち伏せされるのが怖くて、家に帰れなくなった。テレビも、服も置いたまま、家を出た。店長は相談に乗ってくれなかった。仕事も辞めた。「恐喝を受けている」。警察に相談したが、相手にしてくれなかった。
「家族」「里親」「福祉」「仲間」「仕事」「警察」……。Aさんは、こうした〈つながり〉から排除された。「行くところがない」。所持金もほぼゼロ。路上生活者になった。寝る場所は、公園、コンビニエンスストア、公民館の駐車場……。ゝ不ットカフェは、リクライニングシートで仮眠を取ることができ、シャワーの付いた施設もある。何より、1500円程度で一晩明かせる。ただ、そのネットカフェさえ、「高くて入れなかった」。
水とトイレは公園の施設を使った。食べるのは、日に一食。コンビニエンスストアの倉庫には「廃棄用」の食べ物がある。コンビニでアルバイトをした経験があるから知っていた。時折、その食べ物を「拝借」した。万引きを繰り返したこともあった。「このまま犯罪者になっていくのかなあ」。そんな思いが頭をもたげたことも珍しくなかった。
ハローワークに足を運んだ。ただ、身寄りも、家もない自分に紹介される仕事は、建設関係の住み込みの仕事だけ。住まいは6畳I問の3人の共同部屋。自分以外は、60代と40代の男性が同居人だった。10代の若い自分は「若造」。仕事中はもちろん、仕事が終わっても、雑用をこなすよう命じられた。「パンツを洗え」。こんな雑用までこなした。嫌になった。2ヵ月単位の仕事を、3日で辞めたこともあった。「もう死ぬしかないのかな」。そんな考えも浮かんだ。
Aさんは最近、知人の紹介で生活保護を受給し始めた。ただ、この数年で受けた傷は重く、精神疾患を抱えた。彼は目を伏せながら、言葉を振り絞るようにこう話す。「先が見えない」。
Aさんのようなケースは決して例外ではない。
30代のBさんは10年近く、住所不定のフリーター生活を続けている。泊まり先は、ネットカフェや公園などだ。Bさんは高校卒業後、大学に入学した。だが、「大学に行く意義が見いだせず」、間もなく大学を中退。親から「出て行け」と言われ、家を出た。以来約10年以上経過した。ネットカフェは、会社員や若者がくつろげる場として都市部を中心に広がっている。リクライニングシートがひとつ備え付けられた「個室スペース」があり、そのスペースの机の上にはパソコンもあり、テレビも見られる。マンガもあることから、「マンガ喫茶」と言われることもある。カップラーメンやパンなどを自販機で購入できる。なかには、シャワーの付いたところやマッサージ器、ダーツゲームを楽しめる場所もある。
カフェで一晩を明かす時、Bさんは、個室の机の下に、下着などの入ったバッグを置き、シートを後ろに下げて眠る。机の上には携帯電話。携帯には随時、派遣会社から翌日の仕事の連絡がメールで入る。文字通り生活の「命綱」だ。引っ越し、工事現場、イペント設営など、紹介される仕事の多くは、「日雇い」だ。お金がない時は、「路上」で過ごす。例えば、昼は、「健康ランド」の昼割引で風呂に入り、図書館で寝る。食事はデパート地下の試食でしのぐ。「寝床」については、夏場は公園などだ。厄介なのは、冬場だ。公園で寝ると凍死する可能性もあるからだ。だから、冬場は、あてもなくひたすら歩き続ける。そして、1時間ごとにコンビニエンスストアで暖をとる。親しい友人もいない。なぜなら、職場を転々とするためだ。家族とも音信不通の状態だ。ネットカフェで使うインターネットは、「外」の世界とつながるための貴重なチャンネルとなっている。「死んでもだれもわからないでしょうね」。そうつぶやく。
住む場所がなく、ネットカフェなどに寝泊まりする若者について、厚生労働省は2007年8月、実態調査を発表している「厚生労働省9aoo7」。この調査は07年6月から7月にかけて実施。全国のネットカフェやマンガ喫茶計約3000店を対象とした聞き取り調査と、東京23区と大阪市で利用者計362人に対して行った面接調査の結果を踏まえ、人数などを推計したものだ。
調査結果によると、ネットカフェの利用者は、全国で一晩約6万900人。その大半は、仕事や遊びで遅くなった「一時利用者」だったが、帰る家がないため日常的に泊まる「ネットカフェ難民」が、推計約5400人いることがわかった。その内訳を就業形態別に見ると、アルバイトや1日単位の仕事をする「旦雇い派遣」など、非正規労働者が約2700人と半分を占める。失業者(約1300人)も含めると、大半が不安定な就労状態にある。年齢別では、20歳代が27%、30歳代が19%と半数近くが若年層。50歳代も23%で、中高年でも広がっている。平均手取り月収は、東京で10万7000円、大阪で8万3000円。ネットカフェ以外では、路上、ファストフード店、サウナでも寝泊まりしている。
「置き去り層」も、不安定な就労になりがちだ。労働政策研究・研修機構が調査した「大都市の若者の就業行動と移行課程」(2006年)によると、高等教育を中退して正社員になった人はわずか14・7%、アルバイトかパートが59」8%と最多だ。高校中退の場合も同様で、正社員になった人は12・8%、アルバイト・パートが50・6%と最も多い。