政府が準天頂衛星システムを利用した2兆円超の新規市場創出に向け、2016年度から民間企業などの支援に乗り出すことが23日、分かった。精度が高い位置情報を使った自動運転車の開発や、農村での無人農機の導入などさまざまな産業に応用できるとみており、20年東京五輪・パラリンピックで先進事例を紹介、関連産業の海外展開につなげたい考えだ。経済産業、総務、農水、国土交通など関係府省が、調査や研究開発などの費用を16年度予算の概算要求に盛り込む見通し。
準天頂衛星はGPS(衛星利用測位システム)の誤差を数センチまで抑えられ、誤差が1メートル~数十メートルに上る欧米などの測位衛星に比べて格段に精度が高い。
日米欧の自動車大手が開発にしのぎを削る自動運転車では精密な位置情報を使うことで車線変更などの制御がより正確に行える。また位置情報をもとに課金すれば自動料金収受システム(ETC)のゲートが不要になるなど自動車分野で7800億円の新市場が生まれると試算する。
農業分野ではトラクターなど農機の無人化などで大幅な省力化や生産性の向上を図ることができる。農家の後継者不足解消につながるとも期待され、8800億円の市場創出を見込む。
世界の宇宙産業は13兆円規模に上るが、日本企業は欧米に比べ出遅れており、ほぼ国内の官需が支えている状況だ。政府は今夏にも「宇宙システム海外展開タスクフォース(仮)」を新設し、官民で国内宇宙産業の輸出戦略を練る。
準天頂衛星システムは日本だけでなく東南アジアから豪州まで広く利用できるため、政府は新規に創出した関連産業と一体で輸出することで「日本のシステムをアジアで普及させたい」(経済官庁幹部)考えだ。
参考:実用準天頂衛星システム事業の推進の基本的な考え方
平 成 23 年 9 月 30 日
閣 議 決 定
準天頂衛星システムは、産業の国際競争力強化、産業・生活・行政の高度化・効率化、アジア太平洋地域への貢献と我が国プレゼンスの向上、日米協力の強化及び災害対応能力の向上等広義の安全保障に資するものである。諸外国が測位衛星システムの整備を進めていることを踏まえ、我が国として、実用準天頂衛星システムの整備に可及的速やかに取り組むこととする。
具体的には、2010 年代後半を目途にまずは4機体制を整備する。将来的には、持続測位が可能となる7機体制を目指すこととする。
我が国として実用準天頂衛星システムの開発・整備・運用は、準天頂衛星初号機「みちびき」の成果を活用しつつ、内閣府が実施することとし、関連する予算要求を行うものとする。また、開発・整備・運用から利用及び海外展開を含む本事業の推進に当たっては、関係省庁及び産業界との連携・協力を図ることとする。
内閣府がこうした役割を果たすために必要な法律改正を予算措置に合わせて行うこととする。なお、内閣府に実施体制を整備するに当たっては、行政機関の肥大化につながらないよう配慮するものとする。
@準天頂衛星システムとは、高度36,000kmの円軌道を、赤道から約45度傾けた軌道に置く衛星通信システムであり、少なくとも3機の衛星を互いに同期して配置することより、常に一つの衛星が日本の天頂付近に滞留するという特徴を持つ。