魯生のパクパク

占いという もう一つの眼

小都小都 1

2013年10月06日 | 小都小都

田舎暮らしをすることにした。
過疎地の空き家を探すと、考えられないような安い物件があったので、即決し、夏を前に、いきなり引っ越した。
カミさんは嫌だと言うから、独りで来たのだが、来てみると、思ったより山奥で、買物に行くにも、30分以上も車で走らなければならない。

四方を山に囲まれ、その谷間を国道が走っている。村は、国道を見下ろす山の中腹にあるが、7件の家はほとんど廃屋になり、わずかに、80歳を過ぎたお婆さんが村外れに独りで暮らしている。挨拶に行くと、驚いたようだが、事情がわかると、抱きつかんばかりに愛想がいい。

大変なのは家の改修だった。
どこも崩れてはいないが、30年以上も空き家だっただけに、樋や下水の水回などの手入れが、想像以上にやっかいだった。

水道は無いから、井戸に電動ポンプを付けて、給水できるようにしてもらった。風呂は昔の五右衛門風呂で、薪で焚くようになっているが、プロパンの大型給湯器は、台所と風呂にも供給できる。
それにしても、トイレを、よく浄化槽にして貰っておいたものだと思う。田舎暮らしもこれで快適だ。

家の改修をしながら、庭の畑の草を刈り、土を起こしなおした。
敷地の端を耕していると、かなり掘ったところで、なぜか女物のハイヒールが出てきた。泥だらけだが、ティールブルーの色が残っている。洗ってゴミに捨てるのも面倒くさいような気がして、そのまま土をかけた。畑には差し支えないだろう。

敷地内の畑だから、全体を耕しても、たいして日にちはかからない。
すぐ雑草が生えてくるから、とりあえずマルチシートを買ってきて一面を覆うと、庭全面が真っ黒になり、「やったー」と独りで叫んでしまった。濡れ縁に座って眺めていると、達成感が清々しい。

夜になると、マルチシートに月明かりが反射して海のようで、何とも幻想的だ。
その暗い海を眺め、何を植えようかと思案しながら、ビールを飲むのは格別だ。そうだ、先ず枝豆を植えよう。それと、トマトも要るな・・・

そんなことを考えていると、暗い庭の隅に蛇のようなものが出てきた。
「え、何だろう、蛇だろうか?」
笛に操られるコブラのように、しばらく右や左に動いていたが、すぐ引っ込んでしまった。
離れている上、夜目でよく見えなかったが、白黒のボーダーのような縞目に見えた。

あんな縞の蛇は、海蛇ぐらいしか知らない。外国にはいるかも知れないが、日本にはいないはずだ。蛇でないとしたら、何の動物だろう。
せっかく張ったばかりのマルチシートを、もう傷物にしやがって、まったくしょうがないな。
まあ、明日見てみよう、夜中にうかつに突っついたら、咬まれるかも知れない。

次の日は、折悪しく小雨が降ったり止んだりの天気で、陽ざしが無い。それでも、昨夜の動物が気になったので、カサを差して庭の隅まで行ってみた。
やっぱり、10センチぐらいの穴が開いている。のぞき込んでも真っ暗で何も見えない。
懐中電灯を取りに帰って、もう一度中を見てみた。

覗こうとすると、突然、ニュッと出てきた。
ワッと、飛び退いたが、よく見ないうちに引っ込んでしまった。
今度は用心しながら、懐中電灯を照らすと、中からいきなり、懐中電灯に噛みついてきた。
慌てて、引っ張ろうとすると、それは噛みついているのではない。

人間の手だ

懐中電灯を握って、引っ張り込もうとしている。
あまりのことに、もう声も出ない。だが、取られまいと、こっちっも反射的に意地になって、引っ張りあいになった。
足で踏ん張って、両手で引くと、ボーダー柄のシャツが二の腕まで出てきたところで、向こうは手を離して引っ込んでしまった。

反動で、二、三歩さがったが、体中に鳥肌が立って、背中から冷や汗が吹き出してきた。
頭の中は「ギャーッ」と、叫んでいるのだが、全く声が出ない。
叫んでも、逃げても、誰もいない山の中だ。

一瞬、間が開いたら、なぜか、妙に冷静になって、どうしても中を見たくなった。
用心しながらもう一度近づき、懐中電灯で中を照らした。

すると、中は空洞で、相当広い、いつの間にこんな大きな穴が出来たのだろう。顔を近づけるのはヤバイから、近くのクワを取って、穴の天井部分に打ち込んだ。

ぽっかり空いた穴の中に、女の白い生足が太ももから見えて、ティールブルーのハイヒールを履いている。
しかも、その足の膝を折りながら、身体を起こそうとしている。
今にも、上半身がこちらに起き上がって来ることが分かっているのだが、身体が凍り付いたように動かない。声も出ない。

これは、絶対に、この世のものではない。
もう、どうしていいか分からない。
思わず、「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」と、口をつく

その時、ガバーッと・・・・・・

   ・・・・・・  ・・・・・・

ここで目が覚めたら、

「夢でよかったー」と、思いますか、続きを見たいと思いますか