今朝は薄霜が降りるほど冷え込みましたが、日が上るにつれて暖かな光が満ちてきました。
一張羅の紋付に2重太鼓の帯を締めて、茶道の先生宅へ愛車を走らせました。冬の間お世話になった炉は閉じられて、今日は初風炉です。
常の稽古とは異なり、若先生が自ら濃茶を点てて下さいました。弟子仲間2人と私の3人が「茶名」の許状を授与されたので、祝意を表してくださったのです。茶入れやお茶碗、そして水指や風炉も初使いのものを出してくださり、有難いやら、恐縮するやら。
新たに「茶名」となった3人のうちでは私が最高齢だからという理由?で、正客を務めることになりました。同座の弟子7人のうち3人は「準教」(茶名より上級)、若先生は「教授」、大先生は「正教授」! こんな錚々たる方々の前で正客を務めるなど、本来ならあり得ないことですが、今日はあくまでも稽古なので、正客を務めるのも稽古の一環という訳です。稽古とはいえ、緊張してアタフタ、キョロキョロ、何度も所作に迷って皆様の御指導に頼りながらの正客でした。でも、やってみなければ分からないことが次々で、いい勉強でした。
還暦の年にゼロから出発した茶道です。その魅力にたちまち引き込まれた私ですが、既に老化した頭と体での習得は遅々としていました。今回の「茶名」は、いわば努力賞だと、自分としては受け止めています。
許状の申請料は、私の財布にとっては正直なところ少なからぬ負担でした。世間では、許状なんて金で買うようなものだ、というような揶揄の声も聞かれます。先生へも申請料と同額の御礼を差し上げます。でも先生からは素敵なお返しを戴きました。太玄和尚筆の掛軸です。 白雲自ラ去来ス この軸を私のために選んでくださった両先生のお気持を思うと、やはり感謝せずにはいられません。
稽古終了後、両先生は新「茶名」の3人を小料理屋へ案内して下さり、予約席で昼食を御馳走して下さいました。稽古の席とはまた違った寛いだ懇談のひととき・・何よりの記念の日となりました。
私は、茶道については何も知らぬ無粋者ですが、若いころ(二十代も半ばのころ)人に誘われ、作法に何の心得もないのに厚かましくも数回茶席に連なったことがあります。そのとき、造形空間としての茶室と庭の静謐な美しさに深く心を奪われるとともに、茶道そのものの奥深い魅力を、何と言うか、通りがかりの鰻屋ののれんから漂ってきたかば焼きのにおいをかいだ程度には感じることできました(それにしてもひどい比喩だ)。
ともあれ、世界について何も知らず人生経験の未熟な若年期ではなく、ある程度の年齢になってから志した道こそ長く続くと思います。自分のささやかな経験から言っても。
これからも、努め、励み、悩み、休み、そして何より、楽しみつつ、道を歩まれんことを。
思いがけずお祝いと励ましのコメントを頂き、有難く存じます。
侘びとか寂びとか言っても所詮は世俗の世界のことで、疑念を抱くことも少なからず。かく言う自分自身の俗物根性にもウンザリして、茶道の世界を疎んじたくなることもあります。でもこんなことを感じることが出来るのは悪いことではないのかも・・などと開き直ったりしています。
また私の場合、人間として非常に魅力的な先生(大先生と若先生)に恵まれていることが、茶道の魅力に直結しているようです。
いつまで続けられるか・・とも思いますが、「努め、励み、悩み、休み、そして何より楽しみつつ」という貴言葉を胸深く受け止めた次第です。