まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

第19回中国観音霊場めぐり~第31番「三佛寺」(投入堂は・・)

2021年05月12日 | 中国観音霊場

5月3日、晴天の中、倉吉駅前からの路線バスに乗り込む。発車までの間、「日本遺産 三朝温泉、三徳山行きです」という案内が流れる。この両スポットは「六根清浄と六感治癒の地」として日本遺産に認定されており、サブタイトルには「日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉」とある。厳しい六根清浄の修行の後、温泉で六感を治癒するという組み合わせだ。

この日は中国観音霊場めぐりの倉吉シリーズということだが、まずは札所順番で後となる第31番の三徳山三佛寺にお参りする。この三佛寺といえば奥の院にあたる投入堂が有名で、これが「日本一危ない国宝鑑賞」の地である。断崖絶壁にどうやって建てられたのか、まるで外から投げ入れたかのようだということでその名がついた。実物でなくとも、旅番組やネットなどでもその姿をご覧になった方も多いだろう。

2019年に中国観音霊場めぐりを始めるにあたり、どういった寺があるのかリストを眺めていたのだが、この三佛寺は難関だなと思っていた。麓までは路線バスで行けるのでどうということはないが、この投入堂にたどり着くのはハードルが高い。本堂から40分~1時間かけて投入堂の近くまで行くのだが(建物保全のためお堂に入ることはできない)、急な上り坂、木の根をよじのぼったり、鎖場の上り下りもある。あくまで昔ながらの修行の地である。滑落事故も発生しており、中には死亡した例もあるそうだ。

寺のほうも「観光気分では上らないように」と注意を呼び掛けており、受付では衣装や履物のチェックが行われるという。特に履物が不適と判断された場合、草鞋を買って履き替えて上るのだという。また、冬季は登山道が全面閉鎖、それ以外でも雨天時などは閉鎖するという。

これがあったので、中国観音霊場めぐりに当たって三佛寺は冬季、雨の多い夏は避けようと思っていた。そして5月の連休に照準を合わせることになった。

坂道や鎖場は何とかなるとして、私にとってそれよりも高いハードルがある。それは「一人での入山禁止」というルールである。上に書いたように死亡事故も起こるくらいだから、寺としては安全を期すために複数人での入山ルールを厳として科している。

自分の旅のスタイルとして一人で回っている中で(単に同行の友がいないだけなのだが)、これはどうしたものかと思いながらプランニングをした。なお、下の本堂までは拝観料のみで一人でも行けるし、中国観音霊場めぐりとしてはクリアとなる。

投入堂まで行くとなると、一人の場合は境内を行く人に声をかけて一緒に登らせてもらう方法がある。ただそれもきっかけが必要で、状況次第だろう。境内で長いこと待って、同じように一人で来ていた人をつかまえて道連れで登ったというブログ記事もある。

・・さて、倉吉駅から三徳山行きのバスに乗ったのは私の他に3人、そして市街地のバス停から1人乗ってきた。いずれも若い男性で、地元の人には見えない。市街地を抜け、三徳川沿いに上っていく。

途中、三朝温泉を経由する。山間の静かな温泉地で、ここで1人下車。後は町らしいところもないので、全員が三佛寺に行くのだろう。

そして寺の入り口のバス停に到着。バスはその奥の駐車場まで行くのだが、ここで私のほかに2人下車した(残る1人はそのまま乗車)。本堂に続く石段の写真も撮っていたし、明らかに寺目当てである。いや、投入堂目当てと言っていいのでは。

・・・今思えば、ここで2人に私から声をかければよかった。向こうから見れば私のほうが年上で、遠慮もあっただろう。ただ、私もこういう場面でなかなか自分から声をかけられない性分なのである。

この後どうなったか。3人がお互いにけん制しているようで、私がしびれを切らす形でそのまま先に石段を上がり、拝観の受付をした。受付で「朱印帳を預かる」と書かれていたように見えたので中国観音霊場の納経帳を出すと、「あ、それは上の輪光院さんで受け付けてもらいます」と返される。

そしてやって来た支院の輪光院。住職らしき人がタイミングよく出てきて「ご朱印の方ですね~」と声をかけられる(受付から連絡が行っていたわけでもなさそうだが・・)。納経帳を差し出すと、「中国観音、どれくらい回りました?」と訊きながらパラパラめくる。

(寺)「(第30番の)長谷寺が飛んでますね~」

(私)「この後に行きます」

(寺)「大山寺、(書き置きの)紙でしたか~」

(私)「3月で冬の扱いだったので、納経所が閉まってました」

(寺)「(第28番の)清水寺も紙ですか~」

(私)「コロナがどうのこうの、とかで」

(寺)「(表側を見ながら)すごいですね~これだけ回って。私がいいなと思ったのが、(第15番、広島市にある)三瀧寺。あの寺は風情ありますな」

(私)「ちょうど、私も近くに住んでますよ」

(寺)「ここまで来たら、今日中には全部回れるんじゃないですか。(第33番の)大雲院も、最後にふさわしい立派な寺ですよ。楽しみにしてください」

・・・などとやり取りしているうちに、先ほどバスから降りた2人が連れだって奥に向かうのが見えた。そもそも納経帳は参拝の後に出すべきところ、先に出したことでこうした流れになって絶好のチャンスを自ら手放すことになってしまった。

まあ、お二人は何も悪くないし、むしろ(私がいなくて)ホッとしているのではないかな。

朱印・墨書をいただき、次の長谷寺への道を教えてくれる。バスで移動となれば、倉吉駅に戻る途中の竹田橋あたりで下車して、市街地方面に向かう系統に乗り換えて・・と親切に教えてくれる。「本当だったら、この投入堂を見てもらいたかったんですが」と言われるが、仕方ない。「宝物館には十一面観音や、投入堂に祀られた蔵王権現もあるのでゆっくり拝んでください」と送り出される。ここまで中国観音霊場を回った中で、ここまで納経帳をいじられたのは初めてだし、歓迎していただいたのも初めて。これはこれでよかった。

さらに奥に進み、本堂に着く。靴を脱いで中に入る。ここでお勤めである。

三佛寺は修験道の開祖である役行者が開いたのが最初とされる。大山と同じように古くからの山岳信仰の修行の場であった。平安時代、慈覚大師円仁が釈迦如来、阿弥陀如来、大日如来を安置して三佛寺という名前がついた。

その後も山岳修験道の霊場としての長い歴史を持つ。役行者が法力で投げ入れたという言い伝えがある投入堂だが、これまでの研究の結果、平安後期に建てられたと推測されている。時代が下り、江戸時代には鳥取藩の池田氏の保護を受け、現在に至る。投入堂以外にも文殊堂や地蔵堂などの建物が山上エリアに残っている。

本堂の裏が山上エリアの受付で、連休中、また天気がいいこともあって多くの人が訪ねている。負け惜しみ、ひがみを言うと、その多くは、本堂を素通りして投入堂に「ハイキングに行く」ように見えた。

受付の前で次のバスで一人で来た人を待ち受けるとか、やり方はあったはずだが、もういいかなとここで引き返すことにした。もう少し私に執念とか、粘るとかいうのがあればいいと思うのだが・・。

本堂の下が宝物殿である。三佛寺の歴史が紹介されるとともに、かつて投入堂を支えていた柱の1本も展示され、手で触ることができる。思ったより細い。他にも諸仏があり、中国観音霊場としての本尊である十一面観音像もここに安置されている。先ほどの輪光院の住職の話だと、元々は十一面あったのが、頭の他の顔がすべて欠けてしまい(盗まれてしまい?)、今では聖観音像になっているとか。

他にも、投入堂に安置されていた蔵王権現の数々もこちらで祀られている。さすがに、投入堂にそのまま祀っていたのでは持たないだろう。まあ、投入堂には行けなかったが、お堂の中身に手を合わせることができたことでよしとする。他のハイキングの人たちも、せっかくなのでこの宝物殿に立ち寄ればいいのにと思うが・・。

これで帰りのバスを待つが、少し歩いて奥の駐車場に向かう。その先に、投入堂の遥拝所がある。上ることができない場合でもここからはいつでも遥拝することができ、ここもそこそこの数の人が訪れていた。双眼鏡も備え付けられている。

手持ちのデジタルカメラがそれほどズームできないので、画像ではどこに写っているのかわかりにくい。ただ、現地では肉眼でも案外大きく見えた。まあ、これで投入堂も拝んだことにする。それにしても、どうやってあそこに建てることができたのか。いずれ、さまざまな科学の力で判明する時も来るのだろうが、「役行者が法力で投げ入れた」という伝説はそのまま残してほしいという気持ちもある。

帰りは駐車場から折り返しのバスに乗る。次の参道入口で、朝一番で投入堂に登ったとおぼしきご夫婦や子供連れが乗ってくる。足元が泥で汚れていて、おそらく前日あたりの雨の残りだろうか。いいですね、お疲れ様です。

投入堂については、某ツーリズムの「ハイキング中級」で訪ねる大阪発の日帰りツアーがある。実は、今回の中国観音霊場めぐりで投入堂に行けないことも想定して、後日開催のこのツアーを申し込んでいた。これなら団体客ということで入山は問題ない。ただ、緊急事態宣言の延長を受けて催行中止となった。もっとも、仮に催行されたとしても、こうして現地に来てみると、ハイキングツアーに参加してまで行くものではないなということでキャンセルしたと思う・・。

もうええわ。投入堂に対してすっかり「投げやり堂」である。

気分を切り替えて長谷寺に向かう。投入堂への往復がなくなった分、この先は時間に余裕がある。教えていただいた竹田橋のバス停に戻る前に、せっかく来たので三朝温泉に立ち寄ることに・・・。

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