山の中とはいえ暑く感じる水上の駅前に降り立った私と大和人さん。旅行会社のプランで来た客たちは駅前に停まっている出迎えのマイクロバスなどで昼食+温泉つきの旅館・ホテルに送り込みということになるが、「奥利根号」でやってきたその他の乗客の多くが駅前で「これからどうしようか」と迷っている様子だ。
私たちも水上での過ごし方の決定打を持たないまま降り立ったのだが、時刻は12時過ぎ。ということであればまず昼食をということで、これも一見して決定打のなさそうな駅前の商店街の中を、一件の食堂に入る。数少ない決め手の中で目に付いたのが、「群馬名物おっきりこみうどん」。群馬はうどん、そば、佐野ラーメンなど麺類の名物の多いところ。おっきりこみうどんとは、平たいうどんの麺といろんな野菜や肉を鍋で煮込んだもので、甲府のほうとうと似た感じの一品である。夏場は冷やしうどんがこの店のお勧めのようだが、ここは「汗かいても、温泉に入って流せばいいか」ということで、熱いほうを注文。鉄鍋に入れられたうどんはボリュームたっぷりで、野菜や肉のだしがよく出ており、暑さにもかかわらず汁まで全部飲み干してしまう。
結局この後は温泉街まで歩き、さらに足を伸ばして諏訪峡のあたりまで行くことにする。昼間の温泉街は人通りもそれほどなく、我々のようなイベント列車の客や、高校生のグループと行きかう程度。大和人さんの話によれば、昔はそうでもなかったのだが、最近では高校の部活の合宿などの客も旅館側としては上得意になっているのだとか。
観光案内所のパンフレットでは、いくつか日帰り入浴を受け付けるホテルや旅館の名前も挙がっていたのだがどれも決定打がなく、そんな中たどり着いたのが町営の「ふれあい交流館」。建物の前では地元産の野菜を売っていたり、足湯があったりと地元の人たちが集まるようなスポット。入浴料も比較的安く、係の人も「今なら空いてますからぜひどうぞ」の言葉に、水上温泉の入浴はここにする。同じようにSLでやってきた人もおり、浴槽は5人も入れば満員という小ぶりなものだったが、歩いてきた汗を落とすのにはちょうどよかったし、入浴後はしばらく休憩の広間でゆったり横になるというのも気持ちがよい。
このままここで昼寝でもしようか・・・と思ったが、せっかく時間があるのだからと、この先利根川の遊歩道に沿って下る。途中の紅葉橋では夏休みのラフティングの教室が開かれているかと思えば、橋の上流では20歳前後の男の子たちが橋の欄干からの飛び込みをやっているのに出会う。橋の下では水着姿の女の子の姿もあり、やはり「ここが男の魅せ処」だろう。「3!2!1!」のコールに押し出されて飛び込む姿というのも、夏の風情である。
そんな中、大の男2人が諏訪峡にかかる吊橋を渡り、水のトンネルを抜けてたどり着いたのが、「トリックアート美術館」。ここから水上駅までの送迎バスが出るというので、それまでの間入ってみることにする。
入場料が900円と、最初は入るのに躊躇したが、中には昔の名画を立体風に模写したり、目の錯覚を利用して見る角度によって絵の形が変化するような作品がズラリ。そのトリックに思わずうなりながらの見学である。バスまでの1時間足らずの滞在であったが、「これやったらじっくり見たら1日楽しめますな」という大和人さんの感想である。
バスの時間が近づいたので・・・と行ってみると、出迎えたのはバスではなく、10人乗りのワンボックスカー。虫の音を聴きながらこれに揺られ、水上駅着。駅前の線路際には、柵に三脚をくくりつけてSLの出発を待つギャラリーの姿も多数。
さて帰りのSL「D51」。水上に来るまでに見た顔も多く、ほぼ満席となる形で出発。今度はボックス席の「C・D」席。進行方向に向かい合わせだが、ボックス席で2人横に並ぶというのも、いかがなものだろうか。
往路と同じく、じゃんけん大会によるSLグッズの進呈や、記念乗車証の配布が行われる。そろそろ西日の差す上州路。多少怪しい雲も広がっており、最近の「ゲリラ豪雨」の心配もあったが、渋川での長時間停車もこなした後で、高崎到着。ここでSLからELへの機関車交換があったが、もうどうでもいいや。
その間、飲み物の買出しなどに出かけていたが、団体客が高崎で降り去った後に多数の空席があるのを見つけ、自席を明け渡してこちらに移る。まあここから新規に乗ってくる客はめったにいないだろう・・・(実際にはいた。ひょっとして、SLが上野まで行くと思って慌てて指定席券を買ったのかもしれない)。
団体客のいなくなった客車内は、それこそ往年のローカル列車のような雰囲気で、同じようにこちらに席を移してきた人も。大和人さんとベッタリする必要もないので(あちらもそう思っているでしょう・・・)、お互いに1ボックスずつを買占め、往年の客車列車の旅を追想するように、上野までの道を行く。この日は熊谷で花火大会とかで、定期列車は通勤ラッシュ並みの混雑だったが、臨時列車の帰り道は我関せずといった走り。途中の駅で「全車指定席」と知らずに乗ってきたような客もいたが、車掌も指定席料金だけ徴収して、空いた席に座ること自体は何も言わないようだった。
途中で窓を開け放ったり、ボックス席にL字状に横になったりと、好き放題に楽しむ。「関西じゃ絶対こんなことできませんよ」という大和人さん。ひょっとして、SL列車で往復したことよりも、ガラガラの回送列車で客車の風情を楽しんだことのほうが大きかったのかな・・・?結構、高崎から上野までの区間の指定席というのは、ねらい目かもしれない。完全にお腹いっぱいの状態になり、終点上野駅の地平ホームにゆっくりと入線するのを見守る。客車列車らしい、ゆったりとした到着である。
SLもそうだが、イベント改装されていない、オリジナルの客車列車に乗るという意味でも面白い体験になる「EL&SL奥利根号」。まだまだ運行期間もあることだし、機会があればまた揺られてみたい列車であった・・・・。