長野駅近くで信州郷土料理を楽しんだ後、夜行バスの発車までの時間を利用して、篠ノ井線の姨捨まで往復することにする。乗るのは20時53分発の甲府行き。ちなみにこの列車を乗り通すと、終点甲府には23時53分着。なかなか長距離の列車である。もっとも、この時間に長野から甲府まで乗り通す人はいないだろうが。
向かいのしなの鉄道、妙高高原方面にはボックス席を備えた115系が停車している。本音を言えばあちらの車両に乗ってみたいところ。長野駅を出る時には信越線カラー、そして戻った時には横須賀線色の車両が停まっていた。
一方、甲府行きは211系のロングシートである。平日は通勤利用もあるのか6両編成である。もっともこの日は1両に3~4人ずつの乗車である。冷房のほかに換気用ということであちこちの窓が開けられている。
ところが発車してしばらくすると、窓に水滴がつくようになった。どうやら雨が降ってきたようだ。近くの開いている窓からも雨が入ってくるので慌てて窓を閉める。車内放送でも近くの窓を閉めるよう呼びかける。雨雲レーダーを見ると、また限られたエリアでの強い雨が発生しているようで、この先の姨捨もその中に含まれている。
稲荷山を過ぎ、列車がいったん停止する。もう姨捨に着いたのかなと思うが、長野方面からならいったん側線に入り、運転方向を変えて姨捨に入るはずだが、どうも動きがおかしい。外もやけに暗い。ここは稲荷山と姨捨の間にある桑ノ原信号場のようで、ここでいったんスイッチバックで側線に入り、名古屋からの特急と行き違う。ようやく動き出し、今度は姨捨に入る。雨に濡れた窓越しに夜景が少し見える。しかし反対側を見ると何やら見慣れない窓や壁が並ぶ。これは何だろうか。21時26分に到着して、21時48分に長野行きが来るまでの時間を過ごそうとともかく下車する。善光寺平を見下ろすホームの先に行こうとすると、なぜか警備の人が立っている。「夜景の撮影ですか? それでしたらこの辺りでお願いします。向かいに列車が停まってますんで、それまで待ってください」と制止される。
その向かいの列車とは・・・JR東日本の豪華クルーズ列車の「四季島」である。現物を初めて目にするが、まさかこんなところで出会うとは。
JR東日本のサイトを開けると、ちょうどこの日は1泊2日のルートで運行している途中のようだった。1日目は上野を出発してまずは中央線の塩山まで行く。甲州ワインの食事やワイナリーの見学などの後、車内でのディナー。そして姨捨での夜景見物である。見物をしながら地酒やワインを楽しめるラウンジも新たにできている。先ほどの警備の人の制止は、車内から夜景を見る人の妨げにならないように、停車中はホームのその部分には立ち入らないようにということだった。
「四季島」を近くで見ようと、跨線橋を渡って駅舎側のホームに向かう。そろそろ発車時刻が近づいているようで、乗客は皆車内に戻っている。駅舎の前には地元千曲市の観光PRの人たちやラウンジのスタッフがお見送りである。車内からも乗客やスタッフが手を振る。発車時にはお互いにハンドベルを鳴らして送り出す。
「四季島」がこの後長野方面に向かうのであれば、スイッチバックの側線に入った後、善光寺平側のホームの下を過ぎる。もう一度跨線橋を渡り、ホームの下を過ぎる列車を見送る。姨捨の夜景を見に行き、思わぬこうした夜行列車に出会えるとは。
この1泊2日ルートの続きは、長野からしなの鉄道~信越線~磐越西線を通って翌朝に喜多方に到着。その後、会津若松、栃木で観光と食事を楽しみ、夕方に上野に戻るルートである。途中に非電化区間も含まれるが、「四季島」の車両は電気、ディーゼルエンジンの両方を動力としているために、非電化の路線にも乗り入れることができるのも強みである。
気になるお値段だが、この1泊2日ルート、最も安いスイートルームで、2人利用で1人あたり37万円、1人利用なら55万円。最も豪華な部屋で、2人利用で1人あたり50万円、2人利用なら75万円と、何とも贅沢なものだ。このルートを単純に回るだけなら、青春18きっぷを使った鈍行の乗り詰めでも2回分で可能だが、そこは豪華な車内で過ごす、最高の食事、充実した観光というのがくっついてくるわけで・・。他にも北海道まで行く3泊4日ルートをはじめ、季節に応じていくつかのルートがあるが、どれも豪華でおいそれと手が出るものではない。これに比べれば、この度デビューする「WEST EXPRESS銀河」などお手軽列車といえる。まあ、そもそもターゲットとする客層がそれぞれ違うのだが・・。「四季島」が行き、千曲市の人やラウンジのスタッフも帰り支度をすると、駅にいる人もわずかになった。帰りの列車は長野への最終なので乗り過ごさないように駅舎側のホームで待つ。こちらは見送りもなく、3両のガラガラのロングシートに身を寄せる。
長野駅に到着。夜行バスの発車まで1時間あるが、これ以上列車に乗りに行くこともできず、幸い雨もやんだので駅前のロータリーで過ごす。大型モニターには気温26度と表示されていて、数字だけ見れば熱帯夜ではあるがやはり涼しく感じる。終電ぎりぎりまで楽しむか、あるいはオールで過ごすのかわからないが、駅前では奇声をあげる若者グループも結構いる。そろそろ時刻となり、駅前のバス乗り場に向かう。数人の客がバスの到着を待っている。バスは野沢温泉が始発で、ここまでにいくつかの停留所を通るが、この日の予約は全体的に少ないようだ。前後、隣が空席となるように座席を指定したが、どうやらそれが当たりそうだ。
長電バスの車両で、京都駅、大阪駅、なんば(湊町と南海)、三宮を経由してUSJに行くというもの。周りに他の客がいないのでフルリクライニングが可能だし、荷物も多少広げて足元のスペースを確保することもできる。翌朝は特段用事もないので家でゆっくりするだけだが、大阪までも楽に戻れそうだ。
長野インターから高速に入り、姨捨サービスエリアで15分休憩となる。翌朝まで外に出られるのはここが最後ということで、善光寺平の展望台に行ってみる。先ほどの姨捨駅の南、少し標高の高いところに位置する。さすがにこの時間ともなれば灯りの数も減っているが、もう一度姨捨の夜景を見ることになる。昼間の晴天だとより素晴らしい眺めなのだろう。
日付が変わり、後は大阪に向けて走る。途中、恵那峡サービスエリアで長い停車があったが、その後はよく覚えていない。
翌朝5時すぎ、京都駅八条口に着く前に放送が入り、車内の照明がつく。
外が少しずつ明るくなる中、桂パーキングエリアでも少し停車し、豊中から阪神高速、梅田出口で出て大阪駅の桜橋口に着いた。意外にもここで下車したのは私だけ。今回はなんばまで行かず、ここから大阪環状線で天王寺に戻る。なかなか濃い1日(と車中泊)となった。
これでこの夏の青春18きっぷの旅は終わりとなる。何やかんやで、普通に使いこなしたなあ・・・。