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参詣者の中には輪袈裟をしている方も目立つ。よく見ると鏑矢が2本交差した紋が描かれている。鏑射寺は聖徳太子が鏑矢を奉納したことから興ったとされているから、寺の紋章なのだろう。前には「鏑射寺奉賛会」の文字が入る。寺の檀家というよりは純粋に鏑射寺を、それよりも山主の中村公隆師を慕う人たちと言えるだろう。あちこちで参詣者同士が挨拶しあっているのを見ると、表現は悪いがサークルの常連さんの集まりに素人が初めて来ていきなり紛れてしまったかなと思う。あるいは、選手の応援歌や振り付けを知らないのにライトスタンドの真ん中に来てしまったプロ野球ファンのようだとか。
正面の不動明王像を見る。おそらく昭和に中村師が再興した時に造られたものだろうが、護摩供の煤を受けてか黒く、しかし鮮やかに磨かれたように光っている。金色を施した眼光が鋭い。
時刻となり、護摩壇の周りに6人の僧侶が座る。そして最後に高齢の僧が入って護摩壇の正面に座る。この方が中村公隆師だ。御年91歳とのことだがかくしゃくとした感じである。周りの人たちもははーっ!という様子で師を迎える。
周りの僧のリードでお勤めの手順が始まる。それに唱和する声が響く。私も最初の懺悔文から般若心経や、大日如来、虚空蔵菩薩、不動明王の真言までは何とかついていく。だが、次のお経を唱え出したところで、手持ちの巡拝用の経本にはないものなのでここで脱落、仕方ないので手だけ合わせて周りに視線を向けてみる。周りの人たちは鏑射寺用というか、厚めの経本を持っている。前に座っていた方の経本を覗き込み、後でそれに書かれていた漢字を並べてみると、読んでいたのは理趣経であるとわかった。真言宗がベースとしている密教について説いた経典で、真言宗での葬儀では必ず唱えるそうだが、それと意識して耳にしたのは初めてである。読経の間、太鼓の音が軽快だからか、体を揺すり、リズムを取るように経本を読む人もいる。
理趣経が終わると護摩供もメインに入り、炎が本格的に燃え盛る。今度は般若心経に戻り、それを繰り返し唱える。おそらく10回は続いた。そして次は不動明王の真言である。これは何べん続いたか数えられない。法具を振ってリードを取る僧も腕が疲れるようで大変だ。
護摩堂内に煙が行き渡ったところで徐々に炎が収まり、護摩供は無事に終わった。1時間ほどが経っていた。この後、中村師が皆の方に向き、挨拶というか法話をいただく。「今空海」というから厳しい姿をイメージしていたが、語り口は温かい感じである。
その中で「この初不動から節分までの1週間、特別な形で護摩供を修めさせてもらいます。途中、どないなるんかなと思ったところもありましたが・・」とある。何かトラブルでもあったのかなと。
また理趣経の偈文の一節「大欲得清浄、大安楽富饒」を説く。理趣経は人間の欲望を肯定するものとして説かれているのだが(それがあまりに拡大解釈されすぎて違った教えになった歴史もあるのだが、まあそれは置いておくとして)、「大欲」というのは、単に自分の中のちっぽけな欲望ではなく、大きな欲、広く人々を救済するくらいの欲があれば、その中から清らかなものを得ることができるし、安らかな境地をふんだんに得ることができる・・・ということ。それは、世のため人のために何か良いことをするということにもつながるという。
「ずっとお経を唱えて祈りを捧げてますが、この年になってようやく『入り口』に来たと思います」とする一方で、「今年は終わりのほうで何か大きな動きがあるように思います」と結ぶ。うーん、一度聴いただけで全てを理解できるものではないが、ともかく理趣経というものに触れたこと、そして自分のことだけでなく、自他を同じものと見て広い心で接すること・・を聴いたことで、ここまで来た甲斐があったというものだった。後は経典を手に入れるのか、あるいは中村師の著作を買うのか、それもいいかなと思う。
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さてこれで鏑射寺を後にする・・・の前に、次の行き先のサイコロである。
1.生駒(宝山寺)
2.豊中宝塚(不動寺、中山寺)
3.山科(岩屋寺)
4.東住吉(法楽寺、京善寺)
5.大津(円満院)
6.左京(曼殊院)
そして出たのは「5」、大津である。円満院って大津のどの辺やねん・・と検索すると、それは三井寺のすぐ横である。また、近畿三十六不動にはいくつかある「門跡寺院」というのがあるが、その中で初めての当たりである。出かけるとすればまだ寒い時季になるのかな。
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