新元号「令和」になってからちょうど1年。今から1年前といえば明るい雰囲気の中での改元ムードで、「平成最後」「令和最初」というキーワードが至るところに出ていたなと思い出す(このブログでも多く使っていた)。
そして改元から1年経ったところで、こうした状況である。ひょっとしたら、元号が改まった後の数年というのは激震が走るのかもしれない。明治では明治維新、大正では大正政変、昭和では昭和恐慌、平成ではバブル崩壊だったかな・・と思うと、令和では新型コロナウイルスということになるのだろう。令和が歴史の教科書に載る頃、後の世の人から見てどのような記述がなされるのかなと想像するのも面白い。
さてそんな中で大型連休期間に入った。この連休中、当初は中国観音霊場の山口県シリーズの続きということで、周南市~山口市~宇部市を4日間で回る予定を立てていた(オプションで徳山から国東半島にも渡るのもありかと考えていたところ)。中でも山口に行くのならと、湯田温泉のホテルも前から押さえていた。しかしこの状況である。
いずれも札所の寺そのものは拝観停止にはなっていないようだが、この機会に訪ねようと思っていた博物館、資料館等のスポットはいずれも臨時休館となっているし、宿泊地の夜の飲食店も軒並み閉めているようだ。
前回の3月は半ば「強行」のような形で新幹線とレンタカーで山口県東部を日帰りで訪ねた。大型連休中、例えば1日だけ、徳山の1ヶ所だけでも行けないものかとも模索したが、結局はすべてを延期することにした。例え日帰りでもわざわざこのために新幹線で往復というのもいかがなものか。日を改めて同じ内容で行うか、あるいは山口県内をさらに細切れにして行き来するかはまた考えることにする。
それでも札所めぐりとして身近なところに目を向けると、西国四十九薬師霊場がある。先日、自宅から近場への散歩という意味で羽曳野の野中寺を訪ねたが、くじ引きとサイコロの順序で行けば次の番は奈良・五條市の金剛寺である。県をまたぐ移動には該当するが、失礼ながら大勢の人出があるというところでもないだろう。別に団体で行くわけでもなく、静かに行って静かに戻るぶんにはどうだろうか。日常の買い物のためにスーパーの密接した空間の中で長い列に並ぶ、あるいは賭博玉入れをやるよりも「3つの密」は低いと思うがどうだろうか?
さて、五條へはJR和歌山線か、奈良交通の路線バスのいずれかで行けるし、また鉄道の乗り換えポイントもいくつかあるが、今回は近鉄吉野線の吉野口でJR和歌山線に乗り換えることにした。吉野口から五条(駅名は「五条」)へは2駅である。
藤井寺から吉野口まで行くなら急行への乗り継ぎが標準だが、ここはあえていったん大阪阿部野橋まで出て、特急に乗ってみよう。3月に「ひのとり」デビューに絡めた近鉄特急の乗り比べを行ったが、その際南大阪線で利用したのは「青の交響曲」。ただ今回は、元祖の16000系を狙ってみる。むしろこうした昔ながらの車両に乗る機会を持っておいたほうがよい。今回乗ったのは10時40分発の吉野行き。入線して、編成が16000系の4両であることを確認した後で特急券を買う。まあ、近鉄特急の場合ごく一部の列車を除けば満席になることもない。ちなみに、今回の緊急事態宣言を受けて、近鉄では5月23日以降発車以降当面の間、特急券の前売り発売を1ヶ月前から1週間前に変更することにしたが、多くの利用者にとっては特段大きな影響が出るものでもないだろう。
シートも昔ながらのいわゆる簡易リクライニング。そしてひじ掛けから出る小さなテーブル。昔ながらのスタイルを味わうのもこれからは貴重な出会いになるだろう。大阪阿部野橋を発車した時、私の乗った車両には他に4人の客がいたが、橿原神宮前までで全て下車。吉野線からは1両貸切となった。50分ほどで吉野口に到着した時も下車したのは私だけだった。
次の和歌山線の和歌山行きまで少し時間があるのでいったん改札口の外に出る。静かな駅前である。
吉野口はJRと近鉄の共同管理で、同じ構内での乗り換えが可能となっている。島式の2番線(近鉄 橿原神宮前、大阪阿部野橋方面)と3番線(JR 五条、和歌山方面)は同じホームだが、JR仕様の駅名標が表と裏で色や次の駅名が異なっている。また、2018年から和歌山線でもICカードの利用が可能となり(当初は高田~五条間だったが、2020年3月から和歌山までの全駅で利用可能)、ホームには乗り換え時にタッチする読み取り機が置かれている。
近鉄、JRともここで列車行き違いが行われるので、タイミングが合うと4つの番線に双方の列車が合計4本並ぶことになる。11時48分発の和歌山行きに乗る時もそうだった。
2019年から和歌山線の車両となったのが227系。外から見た形は最近のJR西日本の近郊型車両と変わらない。ただ内装はロングシートが並ぶ。このタイプ、和歌山線、桜井線(万葉まほろば線)のほかに紀勢線でも運用されるようになっており、ドアの横には津波が来た際の対処方法や避難はしごが置かれている。この両線、ローカル区間ながらロングシートにこだわるのはどういうことだろうかと思う(紀勢線の新宮から先のJR東海の区間もロングシート車だし)。
2両で乗客は数えるほどしかおらず、こういう状況のため鉄道会社からの案内もあって、あちこち窓が開いている。この時季、ちょうど気温もよく窓から入る風も心地よい。次の北宇智を過ぎて、五条に到着。数少ない乗客もほぼ全て下車した。列車は和歌山行きなので、この先淡々と、駅ごとに少しずつ客を乗せるのだろう。
金剛寺へは駅から徒歩25分とある。このまま歩いて行けばいいのだが、今回五條まで(町のことなので「五條」に戻す)来たということで、あるスポットは見ておきたい。ここは五條市の観光スポットの一つだが、「3つの密」になることはまずないだろう。駅からてくてく歩き、現れたのは「柿の葉すし本舗たなか」の本店。柿の葉寿司は奈良県の名物で、老舗もたくさんある。その中で有名な店の一つが「たなか」で、CMで故・大滝秀治さんの「つまらん!!」・・もとい「柿の葉すしはやっぱり『たなか』だなぁ~」というセリフが印象的である。ここで自分土産用にサバとサケの詰め合わせを購入する。
「たなか」の店からほど近くに中途半端なコンクリート橋が現れる。これが幻の「五新線」の跡である。今や五條市の観光スポットの一つにもなっている・・・。