カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

母は愛すべき対象か   Mother

2022-03-20 | 映画

Mother/大森立嗣監督

 ギャンブルやホスト通いなどで金を散在し、すぐに生活を破綻させているシングルマザーの女には、小学生に上がるくらいの男の子が居る。金に困ると肉親に金をねだり、工面してもらっても返す気など無い。元夫からの養育費もあるようだし、細かくは分からないものの、行政からの養育支援費のようなものも得ているのかもしれない。もっともガスも電気も停められるような状態で、おそらくだが家賃だって怪しい。どんどん破綻する一方で、新たな恋のどんちゃん騒ぎは過熱していく。母(その女)は新しい男と旅行に出て帰って来ると、その男と画策して役場の男が息子を虐待した、と言ってお金をせびることにする。役場の男は困惑しチンピラともみあいになり、どういう訳か腹に刃物が刺さってしまう。怖くなって電車で逃亡し、皆と旅館街に逃げ込むが、しばらくしてほとぼりが冷めたころ実家に電話すると、どうも役場の人間は死んではいないようだった。喜んでまた金をとったりなんかしながら遊び暮らしていたが、どうも新しい男との間に子供ができた様子で、それを話すと「無理」だと言われ、殴られるなどした後男は去っていくのだった。
 そうして月日がなれてホームレス然としていた時に、行政なのか支援団体なのかに保護され、荒れている中でも部屋を与えられ生活ができるようになり、下の妹を世話しながらではあるが、息子はその団体が支援している学校へときどき通えるようになった。そういうつかの間の安定した生活が送られるようになった中、無理だと言って逃げていた男(妹の父)が、突然支援宿泊所に現れるのだった……。
 結局そういう具合に次から次へと破滅の道を歩み続けるお話である。そんなことをしても必ず破綻するようになることは目に見えていながら、金を借り、盗み、それをパッと使って楽しんでいるように見える。実際は大して楽しそうでもないが、不安を抱えながらもそういうことをやるしか考えつくことが無い。そうしてその考えの延長に至る最後の手段として、どのように金を作るのか、という事件を起こすことになっていく。
 最初から何かの救いのようなものがあることは、期待しづらい。何か非常に頭の悪い人たちなのか、とも思ったが、頭は良くないにせよ、分かりやすく壊れている感じである。周りの人間は何度も裏切られてきたことにうんざりさせられており、その場限りの嘘しかつかない女に、とことん愛想をつかしている。息子だけが、ただ母だということだけで、その嘘を補完し、犯罪を繰り返すことに躊躇が無い。母からの命令だから、感情を殺して言われたままに行動ができるようなのだ。こんなことではだめだということは分かりながら、母が困っていることから逃げることができない。少年は年を重ねていき、母から逃げ出すチャンスが何度もあった様子なのに、結局は母の不条理さから逃れることができないのである。それは何であるのかは、僕には最後まで分からなかったが、要するに共依存という精神病だったのだろう。
 物語では、魅力的な母親に複数の男が絡んでいるようにみえる。それで、このような生き方ができたことが示唆されている。しかし、あまりにも場当たり的で、そうやってセックスで得た報酬は、実はさほど大きなものではない。もっと大きなものが狙えたはずなのに、その場限りの小金をごまかす程度なのだ。もしもセックスなしにそのまま生活して行けたなら、それよりはるかに大金が、時間とともに彼女らに投下されていったことだろう。
 問題提起という感じでは少しは意味があるのかもしれないが、壊れていく人は、もう少し違う分野の人たちであろうと思う。分かりやすくするために、そういうものが損なわれているのではないかと、僕のような人間は考えてしまった。結局まだ、この物語は終わっていないのだろうか……。
コメント
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