痔の調子が悪いような気がして、日々の不安が募っていた。今の時期は(厳密には今の時期には限らないのだけど)会議が多くて、あまり時間が取れない。手術ということになると、それなりの期間、拘束されてしまう。もっとも今はほぼZOOMでの会議なので、よっぽどのことでない限り欠席ということはできない。移動時間が関係ないのと、時間調整が比較的簡単なので、たとえ日時が重なっても、前だとか後だとかにずらしてもらえたりする。しかも痔ということになると、痛みはあろうけれど、具合が悪いというたぐいでは無かろう。病院の大部屋なら問題かもしれないが、ロビーやら駐車場の車の中だとか、パソコンを持ち込めば会議が可能そうな気もする。これがかえって気持ちを悩ませるもので、病院に行くとそのような準備をしなくてはならないような、強迫観念に襲われていた。
実は痔の手術で入院中であるというのは、スピーチのネタとしては感じはいいけれど、当人としては嫌な感じである。しかし自分はそれを使うはずだというのは性格上分かっていて、不安だけど面白がってもいる。そういう自分も嫌なのだった。
元々通院しているので、その定期の通院時期が近づいてもいる。あとで妻に聞くところのよると、気にして患部を頻繁に触っていたという証言もある。そのせいなのか、痛みが増しているような気がしていた。腫れの具合がひどくなっているというよりも、その道筋のようなものが複雑化して、うまく書けないが、肛門近辺よりやや前方の泌尿器科方面へ伸びていっている。鏡などで確認したわけではないが、触診でもわかるくらいには、しこりがあると思う。妻に確認して欲しいと頼むのだが、断られる。こういうのは気持ち悪がって嫌なのだろう。僕だって嫌なのだから我慢できないものだろうか。
意を決して、病院に電話すると、その日は既に16時を回っており、外来の予約変更ができないと言われる。それで翌日に電話すると、午前には変更できないという。どういうことかと聞くと、13時から16時の間に変更可能なんだそうだ。昨日の人よ、最初からそう言ってくれ。今電話を受けている人も、会話の流れで教えてくれるのではなく、最初からそう言ってくれ。
ということで13時半の会議の前に電話すると、すぐに予定変更出来た。余は満足じゃ。
当日先生は患部を見て、うーんと唸った。そんなに腫れてないし、本人の痛み方もひどくなさそうだし、様子を見よう、ということらしかった。ひどくなったらいつでも来てくれ、という。ほんとにそれでいいのか。僕はてっきり手術の方法や日時の相談に移ると思っていたので、拍子抜けしてしまった。
実際に病院でのZOOMの使用のシミュレーションとか、空いてたら個室の予約だとか、3月もあまり遅くなるとリアル会議なども増えそうなので、それまでにやってくれだとか、入院期間酒が飲めないだろうから、その覚悟とか、病院に持っていく予定の本のリストだとか、を作成している最中だった。そういうことのもろもろが、なんとなく無駄になったような気がした。考えてみると、今の時期は、あんがい手術に向いているようにも感じていた。入院患者がひっきりなしに来るような予感もないし、今こそが穴場であるというような。
しかしながらホッとしてよく考えなおしてみると、そもそも手術なんてものを積極的にしたかったわけではない。いくら麻酔をすると言っても痛そうだし、術後も痛いに違いない。以前手術したときは、ふつうに座れなかったし、寝ていても痛かった。痛み止めを大量に飲んで、胃が痛くなりそうだった。それにやっぱり入院なんてまっぴらご免である。好き好んで軟禁状態になりたい人間なんていないだろう。まあ、読書だけがちょっとだけ心残りのような気もするが、もちろん入院しなくても読んでいいのである。
ということで、すっかり気分がよくなって、痔の状態も、なんだいいようにも思うのだ。将来のことは知らないが、またいい時期に入院のことは考えよう。