オーバー・フェンス/山下敦弘監督
おそらく失業保険を受けている人向けの職業訓練校で勉強している社会人で、離婚して心に傷を負っている男と、夜はキャバクラで働いている、これも心に傷のある女との物語。女のほうの精神はそれなりに具体的に病んでいるようで、観ていて痛々しい。ふつうはこれは無理だろうという状態にあるが、妙なバランスがあって関係が深まるようだ。
ほかにも病んでいる状態らしい人は出てくるので、そういう方面の映画なのかもしれない。了解がないと危ない人だらけという感じでもあるが、そういう緊張感の中にあって、痛痒い演出が冴えているということかもしれない。演技がすごいというか、ちょっと観ていてつらくなるような感じもある。ケンカしそうなピリピリした緊張感は良かったが、しかし男女の仲はどうなのかな、とも思った。ちょっと続けられないというか。
職業訓練校のことを知っているわけではないが、何か囚人服を着た連中が、一定の管理下で指導官の抑圧のもとに我慢して作業をしている風景がそれなりに続く。いわゆる閉塞感がある中で、何か漠然と未来を歩もうという気持ちがないわけではない。無いわけではないが、それなりにあきらめてもいる。皆それなりに過去があって、いわゆるやり直しのためにここにいるからである。やり直し前と、やり直し後には、たぶんだけど少しばかり落差がある。悪いなりにこれからも、頑張りとおすことができるのか。そういう心情を表しているのだろうと思われる。
人生のほとんどはすでに挫折して終わりのようなものである。しかし寿命はまだ来てないのである。本当に区切りのある第二の人生をスタートできるのか。そういう下層に落ちてしまった人間がどうやって生活するのかというテーマがあるのかもしれない。そこには精神を病んでしまった人々もいるのだろう。いわゆる福祉的な視線で映画が作られているわけではないのかもしれないが、そういう問題について考えてしまうような映画にもなっている。今の日本で厳密な階層問題は表しにくいものがあると思うが、こういう世界があるというのは、映画的に面白い視点なのではないか。いや、単純に面白い映画ではないけれど、苦悩を描くという意味では、きわめて現代的な映画である。