風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「針がとぶ」

2013-12-19 | 読書
不思議な短編集。
別々に見えて、どこか繋がっているストーリー達。
日常の断片に見えつつ、どこか非日常。
描写はリアルだけど、非現実的なシチュエーション。
役に立つ本かと言われれば、全く正反対だが、
バタバタとした普段の生活の中で
この本を開くことにより
不思議と気持ちがリセットできる気がする。
激しい試合の最中のハーフタイムの静寂のような存在。

著者はクラフト・エヴィング商會という名で
本の装丁の世界で有名ではあるけれど、
小説(というより物語)も書いてるとは知らなかった。
何かが心に残る作品では無いけれど、
荒れたグランドを均すように
ささくれた心を均してくれる作品群だ。
そしてところどころに印象的なフレーズがある。
なんでも書き留めるという登場人物が
ノートに書くように心にそれらが刻印される。


このごろは本を読んでいて、
「もしかすると、これがこの本を読む最後になるかもしれない」
と思うようになった。
またふたたび、この本を読みたくなる季節が巡ってくるだろうか?
若いときには、こんなことまったく考えなかった。

気がつくと、
都市の中のどこか皺が寄ったような場所ばかりを探し歩いてきた。
そしてまた気がつくと、私自身にも、いつのまにか皺が寄っている。

昨日、「何を撮るのか?」とマーガレットに訊かれたとき、
わたしは「消えてなくなってしまうもの」と答えたけれど、
消えてなくなってしまうものなど、
本当はどこにもないのかもしれない-突然、そんな思いが頭をよぎった。
何も消えたりはしなくて、
ただ時間だけは雲のようにゆったり流れてゆく。
その時間というのも、たぶんひとつの方向に流れているのではなく、
だから人は、その行方のわからなさに不安を覚えて、
何かをしたくなったり、考えこんだりする。
きっと、消えてしまうのは、そのときそのときの思いの方なのだ。
それが惜しくて、わたしはシャッターを切っている。


「針がとぶ」吉田篤弘:著 中公文庫
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