風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「早池峰山巓」

2024-08-17 | 散歩
 「早池峰山巓」

 あやしい鉄の隈取りや
 数の苔から彩られ
 また捕虜岩の浮彫と
 石絨の神経を懸ける
 この山巓の岩組を
 雲がきれぎれ叫んで飛べば
 露はひかってこぼれ
 釣鐘人参のいちいちの鐘もふるえる
 みんなは木綿の白衣をつけて
 南は青いはひ松のなだらや
 北は渦巻く雲の髪
 草穂やいはかがみの花の間を
 ちぎらすやうな冽たい風に
 眼もうるうるして息吹きながら
 踵を次いで攀ってくる
 九旬にあまる旱天つゞきの焦燥や
 夏蚕飼育の辛苦を了へて
 よろこびと寒さとに泣くやうにしながら
 たゞいっしんに登ってくる
  …向ふではあたらしいぼそぼその雲が
   まっ白な火になって燃える…
 ここはこけももとはなさくうめばちさう
 かすかな岩の輻射もあれば
 雲のレモンのにほひもする



宮沢賢治によるこの詩が書かれたのは
今日からちょうど100年前の1924年8月17日。
この日賢治さんは早池峰山に登り
この詩を書いたとされる。
作品を読んだり、「偉人」として伝記を読むと
どこか雲の上の人という感じに思われる賢治さんだが
例えば仕事で大迫の岳集落に行った直後
ちょうどこの時期、100年前にここを通ったと知ると
とても身近な存在に思えるから不思議だ。
岳集落から早池峰山麓にかけては
童話「どんぐりと山猫」の舞台ともいわれるところ。
風や、雲や、木々や、草花や、鳥たちから
生まれ出た物語。
コメント
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