風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

分水嶺

2008-05-22 | 風屋日記
人には人生の分水嶺ともいうべき岐路がある。
それは例えば身近な人の不幸だったり、
新しい命の誕生だったり、
あるいは人によっては転職だったりするわけだが、
それらが一気に来た人間が私の友人にいる。

Kは中学時代の同級生。
押し出しの強い、目立つ人間ではない。
しかし頑な生真面目さではない人の良い真面目さを持ち
しかも清濁合わせ飲む懐の深さもあって
グレていたヤツらも、優等生達も一目置いていた。
悪い連中と授業のサボタージュにつき合いつつも
部活引退後は受験に向けてぐんぐん成績を伸ばしたヤツだ。
私の中学時代の仲間の中では貴重なバイプレーヤー。
何か相談する時はこいつ・・・と信頼が置けるヤツだった。
同級生の神輿も今は亡きSやIとともに立ち上げた仲間だ。

ひとりっ子だったせいか結婚は遅かった。
仲間の中では最後に近い結婚であり、
ずいぶん年下の奥さんをやっかみながら皆でお祝いをした。
お袋さんを早くに亡くした後の親父さんとの長い2人暮しも
結婚の後は慎ましくも楽しい日々だったと思う。
子どもにはなかなか恵まれなかったが元来の子ども好きで、
うちの息子達も小さい頃から可愛がってもらった。

ここのところ私も忙しく、とんとご無沙汰で、
久しぶりにKに会ったのは彼が幹事を務めたGW中の同級会。
その席上「実はまもなく子どもが生まれる」と聞いた。
良かったなー、他のヤツらの子達と2世代違うぞ(笑)などと
みんなで祝福の言葉をかけていた。
「親父さんもようやく孫の顔が見られるわけだ」
と私も彼のグラスにビールを注いだ。

彼の親父さんが亡くなり、もう葬儀も終わったと聞いたのは一昨日。
慌てて昨日、会社の帰りに香典を持って彼の家を訪れた。
建て直したばかりのこぎれいな家の中、祭壇とともに彼はひとりでいた。
彼の話によると、
昨年諸般の事情で会社を辞めた頃から親父さんの体調が悪くなり、
肺ガンでもうそんなに長くないことはわかっていたとのこと。
ただしGWあたりはまだ元気で、その日はまだ先だと思っていたらしい。
仕事が見つからず、時間があったので同級会の幹事もやったが、
1年近くかけてようやく5月から再就職したばかり。

子どもが生まれる予定日だった5/16が過ぎ、
そろそろ・・・ということで奥さんが病院に入ったのは17日。
そしてその日、突然の悪化で親父さんが亡くなった。
いつ生まれるかわからないし、他に家族はいないしで、
通夜から葬儀、納骨まで3日で、ひとりで済ませたとのこと。
「だから誰にも知らせるヒマなくてサ。悪かったな」
と2人でいろいろ話しているところへ電話。
奥さんに付き添っていた奥さんのお母さんから
「そろそろみたい。今夜中かも」とのことだった。
「いやー参った。慌ただしくて申し訳ない」と謝るk。
「それにしても、ほんの3週間の間に一気に来たな。
 親父さんはタッチの差で孫の顔を見られなかったけど
 もしかしたら生まれかわりかもよ」と私は言い
「悪りぃな。後で電話する。飲むべ」と言うKの家を辞した。

ほんの数カ月前とこれからの生活は一変。
でも彼のことだ、慌てず騒がずいつもの通り淡々と
新しい家族の生活を築いていくことだろう。
彼と彼の家族のこれからの幸せを願わずにいられない。
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