風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「装苑 別冊」

2016-01-10 | 読書


実家の中を片付けていて発見した、1959年発行の雑誌。
おそらく結婚したばかりのころ母が買ったものだろう。
たくさんの洋服の型紙が掲載されており
口絵にはそれらの服を着こなした美しいモデルがポーズをとっている。
なんかとても惹かれるものがあり、つい読みふけってしまった。

当時、洋服はできあいを買うのではなく作るもの。
テーラーに頼まないのであれば自分で作るしかない。
型紙に沿って布地を切り、ミシンで仕上げて1着の服を作った。
お金がかかるだけじゃなく、手間もかかったから
1着の洋服を大切に着たのだろう。
いまのようにファストファッションで安く買った服を
いとも簡単に数年で捨てる時代ではない。
昭和40年代の大量消費時代より以前、
ひとつひとつの物の価値観がまったく違う時代が垣間見える。

なるほどこういう価値観の中で生活してきた人たちは
どんな作りの物であっても簡単に「捨てる」とは言わないよね。
実家の中の片付けをしながら「これも捨てる」「あれも捨てる」と言う
私の言葉に悲しげで苦々しい顔の母の気持ちが少しだけわかった。
でもね、いまは何でも簡単に買えてしまう。
家という箱のスペースは限られているのだから
買った分捨てないと人がいるところ無くなっちゃうよね。
だから、残念だけど使わない物たちとお別れしよう。

ところでこの雑誌が発行されたのは終戦から14年後。
口絵に載っているきれいなモデルさんたちは
若く見積もっても20代前半だろう。
(大人っぽくて、現代の感覚では歳がわからない)
ということはみんな戦争を実体験している世代。
しかも恐らく小学生ぐらいで、記憶もちゃんとあるだろう。
集団疎開を経験している人たちもいるだろうし、
もしかしたら命からがら大陸から引き上げてきた可能性もある。
でも写真を見ている限り
そんな体験をした人たちには見えないほどきれいだ。
どんな過去の体験を背負って、どんな思いでこの時代を生きていたのか。
それを想像してみると少し切ない。
ご健在なら今80歳前後の方々の若い頃の姿に触れ、
ちょっとした感慨を感じた。

ちなみにワタシが生まれたのはこの翌年。
コメント
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