風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「#9」

2015-10-02 | 読書


最初の60頁あたりまで
「なんだよ。ハーレクインロマンスかよ」と思った。
(ハーレクインロマンス読んだこと無いけど 笑)
映画のプリティガールのような、
慎ましい生活をしている地味な女の子の前に現れた
ゴージャスな王子様の話かと思ったのだ。
それでも途中で放り出さなかったのは
ミステリアスなストーリー展開に惹かれたためだった。

場面が上海に移ってからいきなり物語は動き出す。
富と権力の、目に見え無い暴力、
現代中国が抱える課題と闇、
それでも個人単位で芽生える友情、
作家の他にキュレーターとして活躍する作者の
知識や経験が存分に生かされるテーマ。
帯には「恋愛小説」とあるけれど
一人の人間の成長の物語なのだと読みながら感じた。

骨董を含む芸術作品にはイマジネーションが必要だと
最初は意味がわからなかったけれど
読み進むうちにだんだん理解できてくるから不思議。
だからといってイマジネーションが身につくわけじゃ無いけど。
ただ、青磁器や景徳鎮など
個人的に興味深いものが出てきた時はかなり食いついたけど(笑)

「鑑賞者として美術を極めるのに必要なのは、
 感性、知識、照合、そして表現です。
 ちなみに、発信者、つまりアーティストに必要なのは、
 感性、技術、独自性、そして情熱(パッション)ですね。
 これはほかの世界にも置き換えられますよ。
 例えばワインとか、文学とか」

「歴代の中国の覇者たちは貪欲だった。
 広大な国土を治め、何億もの民を従えるには、
 どうしても貪欲でなければならなかったのです。
 そして彼らが共通して備えていた能力。
 それは、イマジネーションだったのです」

作者は作家原田宗典氏の妹で、兄弟揃って作家だが、
作風はかなり違う。
マハさんは豊富な知識と細やかな情景描写、
自分とは立場が違う登場人物たちの心情にも寄り添う
(例えば本作でも中国人の心情を慮っている)
ハートウォームな作品が多く、ホッとできる。
本作のラストシーンもまた
描かれてい無いこれからに希望を持たせる終わり方で
読後温かい気持ちになれる。

「#9」原田マハ:著 宝島社文庫
コメント
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