風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「彼女がその名を知らない鳥たち」

2011-12-06 | 読書
いったい何者?
まったく違う世界から50代半ばでの遅咲きデビューと同時に
「九月が永遠に続けば」をヒットさせ、
続いてこの重厚な作品だ。

エンターテイメントではない。
シチュエーションはひたすら不快。
愛すべきダメ人間の小説は数あれど、
本作に出てくる人間たちは
すべからく眉をひそめたくなるようなダメ人間ばかり。
それぞれが勝手に自分たちの思惑の中でうごめいている。
一番まともに見える主人公の姉でさえも
心の中の澱を隠し、その「普通」ぶりが空々しい。

だが待てよ。
現実のこの世のどこに完璧な人間がいるのだろうか。
少女漫画の男の子たちとは違い、
みんな何かしら弱みやコンプレックスを抱え、
心のどこかに闇を抱きながら生きているのではないか?
とすればこの作品はゾラ並のリアリズム小説なのかも知れない。

中でも中年男の汚らしさとある種のだらしなさ、
そしてみっともない虚栄心や執着心を持った陣治は
自分自身を眺めているようで嫌な気持ちになる。
そんな彼の
「楽しかったなぁ、十和子」
という、物語最後の言葉が目に入った瞬間、
ささやかな彼の人生が迫ってきて胸が詰まった。
周囲が迷惑するほどとんでもなく不器用だけれど、
まぎれもなく、これも愛。

「彼女がその名を知らない鳥たち」沼田まほかる 著 幻冬社文庫
コメント
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