風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「鷺と雪」

2011-10-31 | 読書
「悼む人」と同じ直木賞でも雰囲気がちがうものだねぇ。
昭和初期の風景や、当時の華族生活を面白く読んだ。
一応ミステリというカテゴリーらしいけど
本格的にミステリとして読むと肩透かしかもしれない。
でも本書タイトルにもなった短編最後の「鷺と雪」は
華族の楽天的な生活の中にも垣間見えてきた
開戦前夜の重苦しい雰囲気をうまく伝えていると思う。

解説の佳多山大地さんが
この物語の舞台となった当時の世相の一端を
下記のように書いている。
現代に照らし合わせてみて・・・背筋が一瞬凍った。

 (昭和初期、江戸川乱歩「人間豹」に出てきた)
 ニヤニヤとした笑い顔の「レビュー仮面」なるものが急に流行り出し、
 当初は劇場の客が観劇するときだけ被っていたものが、
 そのうち街頭にも進出し、
 「銀座の夜」をそぞろ歩きする過半の人々が、
 同じ笑いの表情に変わって行った。
 電車の中も、地下鉄の中も、
 同一表情の男女によってうずめられた」のである。
 われらがベッキーさんの恐れた、
 間もなく押し寄せてくる<時代>とは、
 まさしく人が同じ表情でいないことには
 弾き出されてしまう時代だった・・・
 それぞれの仮面の下には、
 千差万別の<素顔>があったはずだが。


「鷺と雪」北村薫 著 文春文庫
コメント
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