風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

シェラザード

2011-10-14 | 読書
自分にとって
いい本に出会った時の印象は2通りある。
早く次の頁をめくりたくなる、先に読み進みたくなる本と
いつまでも読み終わりたくない、このままその世界に浸っていたい本。
「シェラザード」は後者にあたる。
というより読み進むにつれて胸が苦しくなり辛くなる。
時々休憩を入れて現実の世界に触れないと
辛くて、苦しくて、哀しくて・・・という浅田次郎氏の長編。

これまで読んだ浅田次郎氏の作品は
同じく哀しい物語が多かったものの前者が多かった気がする。
しかしこの作品は違う。
時代に、戦争に翻弄される市井の人々。
逆らえない運命に、渦の巻き込まれるように吸い込まれていく人々。
フィクションではあるものの、
下敷きとなった史実の当事者達にも、きっと同じような物語があったはず。
「選択」の厳しさ、偶然の残酷さ、
そして戦時下という異常な環境下での指導層達の愚かしさ。
そんな中、哀しみに繋がる愛情と良心、そして尊厳。

戦争とはこんなにも愚かしく、残酷。
旧日本軍の指導層ばかりではない。米軍も然り。
要は「殺し合い」そのものが異常な世界というだけの話だ。
人はみな、生まれ、育ち、生き、家族とともに笑いあう。
そんなささやかな幸せを願っているに過ぎないのに
国家や民族という括りになるだけで武器を手に取ることになる。
なんと愚かなもの、人間。
この作品は
憲法9条改定や軍備増強、先制攻撃論を唱える人達にこそ読んで欲しい。

だいたいのストーリーを知っていた読む前
「なぜにタイトルが『シェラザード』?」と思っていた。
なるほど、これ以上のタイトルがあろうか。
シェラザード・・・千夜一夜物語を夜な夜な語る姫が弥勒丸なんだね。

「シェラザード」上・下 浅田次郎 著 講談社文庫
コメント
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