因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

因幡屋通信68号完成 その2 冬から春のトピック

2021-05-28 | 舞台
 因幡屋通信68号続きましては今年の冬から春のトピックをお届けいたします。

 
【冬から春のトピック】
~心に残った舞台覚書~

☆1月☆
 *二兎社公演44 永井愛作・演出
 『ザ・空気 ver.3
  …そして彼は去った…』
  1月8日~31日 
  東京芸術劇場シアターイースト  その後全国を巡演

 大手メディアと政治との関係を鋭く批評した「ザ・空気シリーズ」の第三弾にして完結編。民間テレビ局の報道番組のチーフプロデューサー(神野三鈴)と与党寄りの政治評論家(佐藤B作)の確執と攻防を軸に、政府の機密文書をめぐって右往左往する放送現場のありさまは、現実の社会の問題点を容赦なくあぶりだす。二転三転する状況が、最後はきっと…という期待は叶わず、「半沢直樹」のようにゆかない結末のやりきれなさは、今の政権、この国のありよう、そして不甲斐ない自分自身へ向かう。
 二度目の緊急事態宣言発令のさなか、すべての座席に飛沫防止のパーテーションが設置された客席は、物語の緊張が高まるほどに静まり返り、カーテンコールは一転、万雷の拍手となった。感無量とは、このときの佐藤B作の表情を言うのではないか。作り手の苦労と奮闘を称える拍手は長く続いた。東京公演のあと、3月まで続いた全国ツアーも無事に完走したことを、心より祝福したい。

☆2月☆
 *オフィスコットーネプロデュース
  ジャン・ポール・サルトル作 
  岩切正一郎翻訳 
  稲葉賀恵(文学座)演出
 『墓場なき死者』
  1月31日~2月11日
 下北沢・駅前劇場

 第二次世界大戦末期、ドイツ軍占領下のフランス。レジスタンスの兵士男女5人が親ナチスの民兵に監禁され、リーダーの居どころを吐くよう、執拗な拷問を受ける。無抵抗な相手を暴力で支配する残虐な場面が続くことに加え、それが同じフランス人同士の対立であること、さらにレジスタンス兵士たちが衝突、決裂の果てに迎える悲惨な結末に言葉を失う。 レジスタンス、民兵いずれも性格や気質を、単純に表現できない人物であり、造形であった。自分がいまだに気になるのは、劇中ほとんど口を開かなかった民兵コルビエ(武田知久/文学座)のその後である。

 *劇団民藝公演 
 三好十郎作 田中麻衣子演出 『地熱』2月6日~14日 
紀伊國屋サザンシアターTAKASIMAYA  
開演前の場内には石を穿つ雫、地面に落ちる木の実、あるいは心臓の鼓動のような不思議な「音」が鳴り、深い溝で左右に分断された舞台には緞帳がなく、剥き出しのすがたを晒して観客を迎える。辛い身の上や不幸な巡りあわせ、貧しさに苦しむ炭鉱町の人々の物語だが、作者が題名「地熱」について「一番安心して、その上に寝られる(中略)、何か人間の体の温かさを支へるに足る、安心出来る熱と云ふ様なものがある」と記したように(公演パンフレット掲載。初出は1953年戯曲座上演パンフレット)、互いの心が通い合う終幕に救われる。
 新鋭の田中麻衣子を演出に招き、若手中心の座組が健闘した舞台は、新劇系の公演では珍しいダブルのカーテンコールとなった。
「地熱」のぬくもりは、確実に客席へ届いたのである

☆3月☆
 *さくらさろんvol.44 オンラインライブ
  山本さくら作・構成
  『創造の翼を』
   2月13日収録/3月視聴

「来るべき公演『生命の翼』に向けて試作オンラインライブ」と銘打ち、パントマイミスト・山本さくらのソロ公演の無観客上演が映像配信された。 奇抜な衣装や切り絵作家・マジョリカとのコラボ、惚れぼれするほど見事なラーメン作りなどはもちろん、最後の「深き森のブルー」が異色かつ出色の作品となった。
 山本演じる鳥のブルーは時おり首を傾けたりするくらいで、ほとんど動かない。そのブルーがイエローという鳥と出会い、やがて力強く羽ばたくまでを、パントマイムと「おおごもりもとい」の朗読で綴ってゆく。英語と日本語を交互に読む進むのだが、美しい声と端正な読みぶりが、動かないブルーの微かな息づかいや体温を感じさせるのである。
 パントマイムは台詞が、つまり言葉がないこと。演者が動くことだという拙いパントマイム観から解き放たれ、パントマイムは「動く」ことであると同時に、「動かない」ことでもあると知った。観客は動かないブルーを見つめながら、この鳥が動きだすのを待つ。その時間を味わうのである。

☆4月☆
 *劇団民藝公演 
 マキシム・ゴーリキー原作 
 吉永仁郎脚本 丹野郁弓演出
 『どん底-1947・東京-』
  4月8日~18日 
 紀伊國屋サザンシアターTAKASIMAYA

 稽古の最終日に延期を余儀なくされた舞台が、1年を経て嬉しいお披露目となった。帝政ロシア末期の人々の物語を、敗戦から2年後の東京の新橋、焼け残りのビルの半地下の空間に翻案したものだ。公演延期の無念や喪失感に耐え、1年を経て作品のより深い理解と豊かな表現へと熟成、転化した舞台は、重苦しい結末にもかかわらず、劇場には温かな空気が溢れた。
これは希望の物語でもあったのだ。
日本の多くの劇団が繰り返し上演してきた『どん底』に、新しい一幕が加わった。 
*四月大歌舞伎   鶴屋南北作 郡司正勝補綴
 『桜姫東文章』上の巻 歌舞伎座
 
 僧の清玄と稚児の白菊丸が道ならぬ恋に落ちたことに始まる因果因縁の愛憎劇は、片岡仁左衛門の清玄と権助、坂東玉三郎の白菊丸と桜姫のそれぞれ二役で美しくも妖しく、罪深い悪徳と情欲のむせかえるような花を咲かせた。 古希を過ぎた二人の人間国宝の艶と香りは客席を圧倒する。 6月の「下の巻」が待ち遠しい。
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