因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団唐ゼミ☆第31回公演『鐡假面』

2024-03-23 | 舞台
*唐十郎作 中野敦之演出 公式サイトはこちら1,2,3)横浜・大通り公園 横浜市技能文化会館前 特設劇場 24日終了 
 
 文化庁の海外研修生として1年間過ごしたロンドンから帰国した中野敦之が「この芝居にありったけを叩き込みます」(公演チラシ)とのこと。およそ2年半ぶりの青テントへ喜び勇んで足を運んだ。

 劇団唐組や唐ゼミ☆の唐十郎作品の公演は、今や欠かせない必修科目であり、自分の演劇人生の大切な宝である。始めはこわごわ、やがて興味津々、テントに足を踏み入れるときの独特の緊張感や間近に見る俳優陣の熱量、皮膜1枚で隔てられた外界の音や空気、それらはやがて終幕の屋台崩しのカタルシスで頂点に達する。屋台崩しは作品によって、その色合いや迫力が異なる。あるときは外界へ勢いよく飛び出し、またあるときは溶け込むように消え去り、向こう側へ行ったかと思わせて、逆に観客の胸に深く突き刺さるものもある。決して「お約束」ではないのである。

 今回青テントへ入場して驚いたのは…すでにテントの向こう側が開放されていたことであった。つまり屋根と壁のある、ほとんど野外劇場だったのである。16時30分の開演時、外はまだ明るい。日が落ちて空が暗くなることと、物語の進行の両方を考慮した微妙な照明の変化や、野外であっても明瞭な俳優陣の台詞(しかも声を張り上げるのではない)は見応え、聴き応えがあった。

 しかしながら、なぜ最初から開放されているのか、それが本作の上演にとって必要なものなのか、どのような意図があるのかが自分には掴めなかった。表は普通に人が歩いており、時おり不思議そうに舞台や客席を見ていく。そういった風景が最初からずっと目に入ることは、決定的な妨げにはならなかったものの、ある種の「慣れ」が生じてしまい、劇世界に今一つ集中できなかったことは確かである。

 さらに観劇時の寒さが尋常ではなかった。劇団のSNSでは防寒対策への呼びかけがたびたびあったのだが、それが上記のようなテント構造であるためとは予想しておらず、zuが不十分であった。後半になると「寒い」以外のことを考えられなくなり、帰宅して『鐡假面』の戯曲(冬樹社『唐十郎全作品集』)をもたもたと読み返している。

 上記の書籍には扇田昭彦による解題と、上演時の詳細な様子が記されており、1972年の状況劇場の本作初演については、「水上音楽堂の舞台に連結する形で張られた紅テント」とある。今回の唐ゼミ☆公演は、もしかすると初演の構造に似通うものがあるのかもしれない。

 唐ゼミ☆の次回公演は7月、主宰の中野敦之がカーテンコールで「次回は大変快適な劇場で」とアナウンスした通り、『少女仮面』を恵比寿のエコー劇場とのこと。新鮮で刺激的な舞台に出会えるよう、先入観や既成概念を吹き飛ばして備えておきたい。

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