因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

鵺的第一短編集

2015-12-25 | 舞台

*高木登作・演出 公式サイトはこちら 新宿眼科画廊 23日で終了  (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11
 はじめての短編集公演とのこと。鵺的公演おなじみのスペース雑遊や「劇」小劇場よりも、今回の新宿眼科画廊はもっと小さい。会場の構造や演出の都合上、遅れて入場することも、途中退場することもほぼ不可能な空間である。体感する広さや雰囲気は、梅ヶ丘BOXであろうか。気温がぐっと下がった祝日の今日は、両隣のお客さまとからだが触れ合うほど、ぎっしり満員の盛況であった。

1、『ふいにいなくなってしまった白い猫のために』
 つきあってまだ日が浅いカップル。妹と仲の良い友だちが恋人になったというつながりだ。互いの距離の取り方へのとまどいか、彼女(堤千穂)は彼(杉木隆幸)を「お兄さん」と呼び、彼は彼女を「日向さん」と名字で呼ぶ。だが彼が実は妹を愛しており、彼女はそれをずいぶん以前から知っていたことが明かされる。
 妹は近々結婚するが、日向さんによれば、ほんとうは兄が好きなのだという。そして「お兄さん」もまた妹への思いを断ち切れていない。「それでもいい、わたしをななみ(妹の名)だと思って抱いてください」ときっぱり。ならば日向さんはほんとうに、芯から「お兄さん」が好きなのかというと、客席から見る限り、確信がもてなかった。そこがおもしろくもあり、痛々しくもある。
2、『くろい空、あかい空、みどりいろの街』
 レズビアンのカップルの凄まじい三角関係のもつれと悲惨な顛末。奥野亮子、高橋恭子、中村貴子が火花を散らす。女性のひとりは、セクシュアリティを隠して裕福な男性と結婚し、自分だけでなく、その恋人までも養わせるという。何と恐ろしいと驚愕しつつ、「そういうやり方があるのか」と感服した。愛のために愛を装うのである。
3、『ステディ』
 ゲイのカップル(平山寛人、稲垣干城)が暮らす部屋に押しかけてくる女性(とみやまあゆみ)。三角関係というか、痴情のもつれが延々描かれる。平山はつきあう相手がいればその人だけという古風な男性だが、稲垣は女性とも軽い気持ちでつきあう。本気にした女性は、彼をまちがった関係から救いだすために、ほとんどストーカーと化す。仕事の関係で部屋に訪れた女性編集者(木下祐子)は冷静沈着なレズビアンだ。

 近親相姦、同性愛と、いずれもマイノリティの関係を描いているが、マイノリティであることが核ではない。相手が肉親であろうと同性であろうと、それじたいはさほど特別なことではなく、ひとつの設定に過ぎない。愛によって人は美しく、強く豊かになると願いたいが、ときにねじくれて手に負えない様相を生みだす。相手をひたすらに愛しているといってもそれはエゴの暴走であり、性的にはノーマルであっても、人の話をまったく聞こうともせず、自己主張を繰り返すのは迷惑行為でしかない。登場人物にはそれぞれ「歪み」があり、それを自分のなかでどうにかバランスを取ることができる人と、歪みがむき出しになって歯止めが効かない人が出会って愛し合うようになってしまったことの悲しみや、第三者からみれば、その様相がときにユーモラスに見えることの残酷が描かれている。

 いつも重苦しい鵺的の舞台だが、今回はさらりと見ることができた。出演俳優さん方も、「追いつめられてる感」が薄れて、作品を味わい、役を楽しむゆとりが感じられる。舞台にある種の「軽み」があることは、観客の気持ちを楽にすると同時に、「あの1本のその後を知りたい」、「長編に書き膨らませることができるのでは」という希望を抱かせてくれるのだ。
 

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