*古川健作 日澤雄介演出 公式サイトはこちら 東京芸術劇場シアターウエスト 27日まで
(1,2,3,4,5,6,7)快進撃を続ける劇団チョコレートケーキが新たに挑戦したのは、実力派俳優・近藤芳正が主宰をつとめるパンダ・ラ・コンチャンとの共演である。公演チラシに両者の出会いから今回の公演までの歩みが記されている。近藤が2013年上演の『親愛なるわが総統』を観劇して好印象を持ったことにはじまり、半年後の『起て、飢えたる者よ』で、演技アドバイザーとして参加、続いて近藤が長年温めていた企画を演出の日澤に持ちかけ、これが劇作の古川の企画と内容が一致したことにより、最新作『ライン(国境)の向こう』が合同公演として実現の運びになったという。幸運な出会い、企画の一致など、さまざまな条件が結びついてひとつの舞台が作られることの不思議を思う。
出演陣は、劇団員の岡本篤、西尾友樹、浅井伸治はもちろんのこと、近藤芳正自身、戸田恵子、高田聖子と、テレビや映画の出演が多く、パブリックネームの高い俳優はじめ、自身が所属する劇団だけでなく、さまざまな舞台への客演が多い谷仲恵輔、寺十悟、若手の小野賢章、清野菜名が顔を揃えた。初日の劇場ロビーは、客演陣の幅広い活動を示すたくさんの祝花が立ち並び、立派なパンフレットも販売されている。
舞台には薄茶色の階段が左右に広がっている(鎌田朋子舞台美術)。第二次世界大戦に敗れた日本が、関東以南の本州、九州、四国で構成され、アメリカが統治する「日本国」、北海道と東北で構成され、旧ソビエトが統治する「日本人民共和国」に分断されたという架空の物語である
国境はあるものの、舞台となった村に暮らす高梨家と村上家は、それぞれの妻が姉妹であることから、お互い農作業を手伝い、子どもたちの面倒をみたり、これまでと変わりなく助け合っている。村上家には北日軍の下士官が、高梨家には南日軍の一等兵が居候し、国境警備をしつつ農作業を手伝いながら、ほとんど家族のように暮らしている。しかし、村上家の長男が軍隊を脱走してきたことから、両家の関係はしだいに軋みはじめる。
戦勝国によって日本が分断されるということはまったくありえない話ではなく、劇作家は多くの資料にあたり、架空の物語とはいっても、歴史的事実をじゅうぶんに検討した上で本作を執筆したと想像する。これまで歴史に実在した人物や事件を題材に創作をしてきた「劇チョコ」の舞台を思い浮かべると、大きな変容が感じられる。
しかしながら、さまざまな新しい試みが舞台を有機的に構成していたかどうか、いまひとつ明確な手ごたえが得られなかった。登場人物は野良着をまとい、農具や弁当の入った籠などをもって出入りする。しかし舞台にあるのは階段だけであり、実際に農業をする場面は描かれない。シンプルで無機的な舞台美術ゆえに観客の想像が自在に広がって、田んぼや畑の土の匂い、人々の汗がかえって濃厚に漂うようであったり、そこに立つ人物がいっそうリアルに際立つという演劇的効果があればと思ったが、舞台も客席も広々として生身の存在が伝わりにくいものになっていた。
企画面でも意欲的であり、自分たちの劇団とその周辺にとどまらない幅広い演劇人と交わること、そこから生まれる新しい舞台を見たいと願っている。決して「下北やサンモールスタジオのいつもの劇チョコさんがいい」と狭量なことを言うのではない。しかしながら、いまひとつ現実味の薄い物語に、テレビや映画でよく見知った俳優が登場するとき、舞台の空気がどうなるか、客席に届くものがどんなものであるのかを考えざるを得ないのである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます