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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

お尻の切創

2016-08-21 | その他外科

時間が経っているがなんとか縫えないだろうか、電話で相談された。

診てみないとわかりません、と応えて来院してもらう。

もうちょっと小さい傷で浅いかと思っていたけど・・・

一期癒合させられるかどうかは縫ってみないとわかりません。ということで縫合することにした。

傷は時間が経ち、腫れている。表面は汚染はひどくはないが、フィブリンで覆われ始めており、変色していた。

触るまでは出血も止まっていた。

借り物の新兵器でデブリドする。

変色部を薄く削ったことになるのだろう。

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枠場へ入れてはいるが、馬は枠場の中から飛び上がって後を蹴ることができるので、油断してはいけない。

もちろん鎮静剤投与して、局所麻酔して、鼻捻子しているのだけれど。

半腱半膜様筋が一部切れている。

筋層は太いモノフィラメント吸収糸で十字縫合した。

皮膚は太いモノフィラメント吸収糸でステントを使ったマットレス縫合。

窓枠の金属で切ったらしい。

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10日ほど経ったが一期癒合しそうだ。

”新兵器”なかなか使えそうだゾ。

 

 


多指症だった2歳馬

2016-08-18 | 整形外科

後肢の骨折で手術に来た2歳馬。

「これあの馬だよ」と、多指症の手術をした馬であったことを教えてもらった。

よく観るとわかるが、よく観ないとわからない。

助けてもらったんだから、ちゃんと競馬して、恩返ししてもらいたい。

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オラは台風で玄関フードに避難してた

寄付集めにきたおじさんに吠えて追っ払った

宅急便のお兄さんのボディーに一発食らわした

兄ちゃんのレポート用紙グチャグチャにして書かなくてよくしてやった

 

 


腕節掌側の骨片摘出

2016-08-17 | 関節鏡手術

いつもの川へ行って、夏休みして来た。

こども達も仕事や実習やクラブや宿題があり、都合がついたのは盆休み最盛期の土曜日曜だけ。

それでも日高山脈のゴルジュの中は誰もおらず貸切りだった。

なんで不便な生活がこんなに楽しいんだろうね。

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休み明けは、種子骨骨折の関節鏡手術。

翌日は、Tieback&Cordectomy.

今日は、腕節のchip fractureだが、掌側にも骨片が飛んでいた。

その部分も腫れていたので、掌側外側からスコープを入れて、半分手探り、半分関節鏡視下で掴み出した。

難易度はDかな;笑


仔馬の中足骨近位骨幹横骨折のdouble LCP固定 2

2016-08-12 | 整形外科

例によって、ペンシルヴァニア大学D.W.Richardson教授に内固定の画像をおくって評価してもらった。

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画像がとても解像度が悪いので多くを述べるのは難しい。

(縮小しないjpeg画像で送っているだが、あちらでは縮小された画像しか見られないらしい。どうしてだろう? 以降は画像をパワーポイントに貼り付けてファイルとして送ることにした。)

印象ではとても良く見える。手根中手関節に近すぎたのではないかと少し気になる。 (*足根中足関節の間違い) プレートはもう少し長いものを使って、わずかに遠位に置けるだろう。私ならスクリューを入れないのは外側のプレートの孔一つだけにする。

しかし、全体にかなり良く見える。私ならキャストはすぐはずし、バンデージをしっかり巻く。

皮膚は健常だったか?

不幸にして感染が起こらなければうまく行くだろう。とても良い仕事だ!

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Richardson教授は褒めてくれているが、私は手術の”でき”に満足できなかった。

それで、

1. minimally invasiveでなく、大きく皮膚切開して整復固定すべきか? あるいは仔馬ではできるだけminimally invasiveでやるべきか?

2. もっと骨折部に圧迫compressionをかけるべきだったか?

3. いつも専門医研修生と学生とを助手にして手術を行っていると思いますが、難しい手術では助手を選びますか?

と尋ねた。

以下、その回答。

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1. 私なら完全なminimally invasiveでやった。しかし、私ははるかに多くの経験があるからだ。比較的小さな切開をして1枚目のプレートを入れて、2枚目はminimally invasiveでやるという君の選択はとても良かったと思う。

2. 言ったようにとても画像が小さいので(携帯で送る画像より小さい)、君がやった基本手技がわからない。絶対的な答えは言えないが、私が思うに、もっとコンプレッションをかけてもより良くはならないだろう。コンプレッションが役立つのは、完璧な整復ができているときで、それは関節固定でより重要だ。

3. 私はいつもはレジデント(専門医研修生)とインターンとで手術するが、最近は代わりの者を教育している。彼女は認定を受けた馬外科医で、難しい症例では手洗いして参加する。2月からだ。私にとっては楽だ!できる二人目の外科医が居るのはまったく素敵なことだが、”必要”ではない。

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ボッキリ折れた馬の肢を治すというのは、とても複雑かつ膨大な作業量が必要だ。

(minimally invasiveでやるなら)プレートは皮下に滑り込ませて、次から次へ骨に孔を開け、スクリューをねじ込んで固定しなければならない。

しかも、正確に!

そのためには手術中に適切なx線撮影もしなければならない。

できる馬整形外科医がしっかりやることも大切だが、そのためのチームを創っておくことも重要だろう。

USAの大学病院もそれなりにたいへんなはずだ。レジデントやインターンは数年で入れ替わるからだ。

自分でできる馬整形外科医が二人でやるのが理想だろう。

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仔馬の中足骨近位骨幹横骨折のdouble LCP固定

2016-08-11 | 整形外科

昼夜放牧している子馬が、朝、中足骨を骨折しているのが発見された。

担当の獣医師がフルリムキャストを巻いて、来院。

中足骨近位骨幹部骨折だ。

骨折部の形状としては横骨折でいいだろう。

骨折部はフルリムキャストの中でずれてしまっていた。

骨折を起こしてから時間も経っていたのかもしれない。

骨折線は磨かれて、ピタリと合うとはいかなかった。

皮膚の一部には穿孔創があった。

すこし破片もある。

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横骨折なので整復は容易だったが、完全な位置を保つのが難しい。

中足骨部全体がひどく腫れているので、肢の形状を把握しづらい。

骨折部の背側を10cm切開し、骨折部を合わせて、切開部からブロードLCPをminimally invasiveに入れた。

近位部に皮質骨スクリューを入れて骨にLCPを押し付ける。

遠位部にも皮質骨スクリューを入れる。これはloadで入れてコンプレッションをかけた。

あとはLHSを近位と遠位へ交互に入れていくが、minimally invasiveでやっているので、なかなか難しい。

外側にナローLCPを入れることにした。

先に入っているブロードLCPへのスクリューと当たらないような位置に奥のに細心の注意を払う。

LCPの1点に力が集中して破損するのを避けるために骨折部近くの孔へはスクリューは入れないことにした。

最後に骨折部を貫通するように皮質骨スクリューをポジションスクリューとして入れた。

本当は完全な角度と向きに整復して、最初にこのスクリューをlag screwとして入れたい。が、横骨折で、骨折部が傷んでいたこともあって、できなかった。

近位部にLHSを付け加えるかどうか考えたがやめた。

キャストするかどうか考えたが、麻酔覚醒のためにもフルリムキャストすることにした。

1週間このまま巻いておいてもらうことにした。

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作戦を考えながら、的確に進めなければならない。ここがポイントというところもある。

うまくいかない部分もあるが、修正するのでなければ、進行中は後悔しているわけにはいかない。

オリンピックの競技を観ていて、共通する部分を感じたことであった。

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夏の夕暮れ。

ノラニンジンの花盛り。