神経症状を示している元種馬。
右に頭が傾き、
右耳の角度が低い、でもひどくはなく、動く。
右眼には角膜炎の痕がある。右瞼の麻痺による乾燥性角膜炎だったと思われるが、右瞼も動く。
右の鼻、下唇は弛緩。でも、舌は露出していない。
-
種馬場に居たときに転倒したらしい。
その頃、平衡感覚障害が重度だったのだろう。
転んでおかしくなったのではないだろう。平衡感覚障害がひどくなって転んだのだ。
すでに数年越しの経過があるようだ。
-
X線撮影で、側頭骨舌骨関節付近が骨増勢しており、骨折らしい亀裂も見える。
喉嚢内視鏡検査で右の茎状舌骨は全体にひどく太くなっていた。
左側は正常。
-
こういう症例では角舌骨もひどく変形していて摘出に苦労するだろうと覚悟していた。
底舌骨と角舌骨の関節が大きい。簡単には外せなかった。
角舌骨体は意外にきれいだった。
術創を奥までしっかり開くことができたが、角舌骨と茎状舌骨の関節が硬く大きい。
外側と尾側からは関節面にメスを入れることができたが、動かない。
結局、骨ノミを入れてハンマーで叩いて切るようにして関節を外した。
左側の茎状舌骨との関節はほとんど完全に骨癒合していたのがわかる。
THOはたぶん18頭目か19頭目。
-
この馬、覚醒時にはやはりひどく右へ傾いていた。
寝ているのを見たことがないそうだ。
寝るとめまいがして辛いのかもしれない。
///////////////////
裏の林で、ひどい折れ方をしたシラカバを見つけた。
この絵を思い出した。
ダリ、内乱の予感。
平衡感覚を失うことを思うもよし、大企業の会長の逮捕を考えるのもよし・・・・・・
横にならない。神経系の疾患は、観察による探査も重要だから、話せない相手を診ている獣医さんがむしろ得意とする分野なのかも。
この馬の神経症状、予後がいいといいですね。
同じ事物を見聞きしても、人の想いはそれぞれなのですね。きっと、わんこもおんまさんも。そうじゃないと、競馬のオッズは、、、、。
これじゃなかったんだけど。ちゃんと障害部位の解説もあったんだけど。
このおんまさんもかなり辛そう。
最近、ウエスタン流の乗馬を観る機会がありましたが、そのとき感じたのは、水勒バミがいかに馬に優しいか!ということです。
大勒だけをつけられると、「ハミにもたれる」馬は一頭もいない、ことに、驚きました。
水勒バミでは、ハミにもたれる馬はたくさんいますが、もたれられるということは、痛くないのでしょう。
ウエスタンの人とお話しもしましたが、やはりというか、ハミの調教は、水勒→ハミ身にジョイントのあるぺラム→大勒、という順で慣らすということでした。
チフニービットは大勒(棒バミだがハミ身に凸の"舌緩め"がある)より、キツい棒バミです。
昔、競走馬の引馬は、水勒のハミ環に二本引き手をつけて引いていた、その頃にも、この症例は今ほどあったのだろうか?と思います。
THOからひどい眼球振とうを起こした馬を見たことがあります。飼い主さんが骨折してしまいました。
明日、馬の神経障害の講演があるのですが私は聴けません。残念です。
名古屋大の学生さんが馬に蹴られて意識不明の重態だとニュースになっていました。チフニーを付けていたら防げたかもしれません。
ゴム製の撓む棒バミも、ジョイントのあるハミよりもキツいのだろう、と思います。
繋駕レースの馬にこの症例が多い、ということから、やはりハミがこの疾病の大きな要因だろうと考えています。そしてチフニーはどうなのか、知りたいです。繋駕レースや乗馬のハミとは力のかかる方向が違うと思うので。後方ではなく、馬の舌を下に、時に前に引くとは。
私は、25年ほど前、ジャンピング競技馬で一頭だけこれかな?という症例を見たことがあります。チフニーは見たことがないので、使われていなかったと思います。その馬が当時どんなハミでどういうトレーニングをされていたか、知りたいですね、例えば折り返しキツくとか、サイドレーンギチギチで調馬索長時間とか?何か調教セオリーに外れたことをしていたのだろうか?
しかし一旦発症すると、馬としての価値が下がってしまいますね。
その後はこういう症例は見たことがありません。
(他の施設で、一ヶ月ほどで立っていられなくなるほど急激に悪化する神経症状(原因不明)や、寝違え事故で後頭部強打による平衡機能障害はあります)
北海道の種牡馬や繁殖牝馬は、普段の引馬、また特に種付けのときにはチフニーをつけられているのではないか、と思いましたが、違いますか?
用役として乗られたり調教で日常的にハミをキツく引っ張られる乗馬や繋駕レース馬に発症するのは、ある種職業病のように分かりますが、
あまり乗られない種馬や繁殖牝馬の発症は、やはり不思議な気がして、原因を考察するべきではないでしょうか。
20頭近くTHOを診てきて、要因になると思うのは、高齢、ハミ(通常の)を着けた長年の運動、感染、でしょうか。
ほとんどすべての病気の原因、病因はわかっていませんよ。インフルエンザでさえ、感染する人としない人の差はわかっていません。
もしチフニーが要因になるのなら、もっと育成馬、競走馬に発症があるはずです。
その年代の骨標本を作っても、第2、3、4中手骨がバラバラになりますよね、管骨瘤も8才くらいからがよくある気がして、あアこの馬は骨融合現在進行中なんだな、ととらえています。
この疾病も、その年代以降に発症するものなのではないでしょうか。
馬術競技の馬は、その年代以降こそがピークですので、この疾病は自然治癒するインフルエンザなどよりもよほど恐ろしいと思いますね。
運動上、くっとうが求められる(運動のために必要性がある)ので、ブリティッシュ馬術競技ではハミにはとても気をつけられていると思います。
ドレッサージュ競技の直後には、係員が馬の口の中まで覗きこんでハミによる傷や出血を検査していますが、
この疾病は見た目で分からない上、より症状が深刻で競技馬として致命的なので、危ないと思います。
サイドレーンなどをキツくした調馬索は長時間しない、
折り返しをつけて障害は飛ばさない、など、馬術トレーニングの基本は、舌骨障害の点にも考慮したものではないか、と思いました。